歪んだ月が愛しくて2
「リカは、チサさんを好きなままでいたくないんだね…」
その言葉に、ハッとした。
そして未空の言葉で気付かされた。
(ああ、そうか、俺…)
「……そ、だね。俺、今まで気付かなかったけど、本当は兄ちゃんのこと好きでいたくなかったみたい…」
誰かに縋りたくて、誰でもいいから助けて欲しくて、そんな曖昧な感情から俺は兄ちゃんを好きになった。
でも初めはそこに恋愛感情なんて勿論なくて、兄ちゃんを好きになれれば同じくらいの想いを返してくれるかも知れないと思って、それがいつしか恋愛感情へと変化していっただけだった。
だから俺は今になってこの想いと訣別しようとしていた。
今更、自分が好かれたいがためだけに兄ちゃんを好きになったなんて知られたくなくて、だから忘れようとしてるなんて…。
そんな都合が良いこと言えるわけがない。
未空の言葉で気付かされた自分の浅はかで薄汚い思考にショックを受けつつも、それでも一度は好きになった人をそう簡単に忘れることは出来なかった。
「じゃあ、今のリカの一番は誰?」
「一番って…」
「だってチサさんを好きなままでいたくないってことは他にも気になってる人がいるってことじゃないの?だから初恋を終わらせようとしてるのかと思ってたけど…、違うの?」
「どうだろう…。ただ兄ちゃんを好きなままでいたくないのは別の理由かな」
「ふーん」
未空の質問は難しい。
さっきから答え難い質問ばかりでスラスラと言葉が出て来ない。
空っぽの脳味噌をフル回転させても碌な答えが思い付かなかった。
「じゃあ恋愛感情じゃなくてもいいよ。今リカの心を占めてる人は誰?」
トンッと、未空の人差し指が俺の左胸を突く。
……何だ。
それなら簡単じゃん。
「……そんなの、未空しかいない」
「え、」
「保健室でのこと覚えてる?急に飛び出してどこ行ったのかと思えば人んちのドアを狂ったように叩いてるし、その上そんな難題出されて未空以外のことを考えられるわけないじゃん」
「………」
「はっきり言うけど、未空は何を試してるの?俺に何を求めてるの?」
「……それは、リカが自分で気付いてくれなきゃ、意味ないかな」
「気付くって、俺は何か気付いてないの?」
「んー…」
「未空」
少し強い口調で未空の名前を呼ぶ。
すると未空はスッと目を細めてフローリングの床から立ち上がり、正面から俺の肩を掴んで離さない。
「なら、これには気付いてる?」
ゆっくりと、まるで俺を追い詰めるみたいに少しずつ縮まって行く距離。
それに比例するように、俺の鼓動が荒く乱れる。
「俺、ずっとリカの…」
「…っ」
空色の瞳に吸い込まれそうになるくらい真っ直ぐに俺を見つめる、未空。
普段は絶対に見せることのない妖艶さに羞恥心を煽られる。
そんな未空から逃げたくても後ろのソファーが邪魔をしてどこにも逃げられなかった。
「み、未空っ、それはちょっと…っ」
耐え切れなくなって目を瞑る。
目を開けて確認しなくても、未空がすぐ近くにいることを全身で認識出来る。
呼吸の仕方すら忘れてしまいそうで、眩暈のような感覚に襲われる。
「リカ、俺…」
「、」
吐息同士が触れる。
未空は今、ほぼゼロに近い距離にいる。
あまりにも近過ぎて身動きが取れずにいると。
「俺、早くリカのカレーが食べたくてずっと我慢してんだよ!」
至近距離で降って来たのは、いつもの子供っぽい声だった。
「………は?」
カレー、だと?
「もうダメ!お腹空き過ぎて力が出ない!助けてアン○ンマーン!」
………うん。
「紛らわしい」
「ぐえっ!!」