歪んだ月が愛しくて2
未空の髪を乾かしてからカレーを温め直していると、その匂いに釣られて未空が復活した。
態々キッチンに入って来て俺を後ろから抱き込もうとする未空を一喝すれば、未空はしゅんと項垂れて大人しくリビングの椅子に座って待っていた。
悪戯して怒られた子供か、と内心ほくそ笑むもよく考えたら普段からそれと大して変わらないことに気付いて暫く反省させてやろうと思った。
……だって、普通あんな紛らわしい真似するか?
腹減ってたなら普通に言えばいいじゃん。
どう考えてもあれは絶対悪意があったでしょう。
ああ言う話の逸らし方をされると九澄先輩を思い出す。
チラッと際どいところまで見せるくせに、最後の最後で本心を隠そうとするところがよく似ている。
“類は友を呼ぶ”とはこのことか。
そう言えば未空の人をおちょくる感じも陽嗣先輩に似ている気がする。
無害に見せ掛けて人を試すような態度を取るくせに、いざこちらが本心をぶつけるとこれ以上聞いたらダメだよねみたいな雰囲気を出して一歩引いてしまうところとか。
それに未空の優しいところは会長に似ている。
会長のような不器用な優しさではなく真っ直ぐな優しさだけど、正反対のように見える彼等は誰よりも同じ空気を纏っていた。
長い時間を共に過ごしていたら性格とか雰囲気とか似て来るのかもしれないが、本来友人関係である彼等の形が家族のようなものに思えてならなかった。
何も可笑しなことではない。
でも、だったら本当の親は?
その疑問が脳裏に過った瞬間、それを掻き消すように頭を振った。
……今、それを考える必要はない。
そう自分に言い聞かせて、パチンとガスを切った。
「お待たせ」
2人分のカレーを持ってリビングに行くと、未空は見えない尻尾をブンブンと振って今か今かと待っていた。
ゴクッと、未空が喉を鳴らす。
「リ、リカ…、もう食べてもいい?」
「期待してるところ悪いけどただのカレーだからね。どうぞ」
「頂きます!」
いや、そんなに慌てなくてもカレーは逃げないから。
「美味しいっ!今まで食べたカレーで一番美味しいよ!」
「いや、食堂で作ってもらった方が断然美味しいと思うけど…」
「リカのカレーはあったかいんだよ!何て言えばいいのかな…、家庭の味って感じで元気になれるんだよね!」
「温め直したからね」
「もう!そう言う意味じゃないよ!」
まあ、褒められて悪い気はしないが、もう少し抑えて欲しい。
野菜を切って煮込んで固形の素を入れただけのカレーをベタ褒めされても恥ずかしいだけだ。
「リカ、おかわり!」
「……ねぇ、早食い選手権でもしてるわけ?」
でも自分が作ったものを美味しいと言って食べてくれるのはやっぱり嬉しいな。