歪んだ月が愛しくて2
「……何か、面白くない」
そう言って未空はカレーを食べる手を止めて口元を窄めた。
「何が?」
「リカに俺の知らない友達がいることが面白くないです」
「作文か」
「俺は真面目に言ってんの」
そうは言われてもさ…。
俺にどうしろと?
アイツ等に会いたいって言われても無理だし、寧ろ俺が会わないようにしてるくらいなんだから紹介すら出来ないってのに。
「……ごめん。嫉妬した」
「嫉妬?」
「うん…。だって、リカって自分のことはあんまり話してくれないから友達の話も聞いたことなかったし…。そりゃリカは転入生だからここ以外にも友達がいるのは当たり前だけど、やっぱり何か面白くなくて…」
「……何か、前にもこんなやり取りした気がする」
「したね、リカに親衛隊が出来るみたいな噂が流れた時に。あれと一緒…」
「拗ねてたんだ、可愛い」
「か、可愛くないよっ。俺、結構マジで言ってるからね?冗談とかじゃなくて本当に嫉妬してるんだからね?」
「分かってるよ。未空の言葉を疑ってるわけじゃないから。でもアイツ等とは全然会ってないから未空が嫉妬する必要はないと思うけど」
「でも少しくらいは連絡取ったりするでしょう?」
「全然。寧ろ俺何も言わずにここに来たから今頃絶交されてると思うよ」
「……え?」
「それにアイツ等は友達と言うよりも…」
『なーに変な顔してんのさ?俺達もう仲間っしょ!』
「なか…、「ちょっと待って!」
その声に思考が遮られる。
「何?どうしたの?」
「どうしたのって…、リカ、友達と絶交したの?それで聖学に転入して来たの?」
「まあ、そんな感じ」
「“仲間を失った”って、そのことだったんだ…」
「……何それ?誰かに何か言われた?」
「あ、いや、それは…、前にカナちんがそんなようなこと言ってて…」
「カナが?」
可笑しいな。
てっきり文月さんが余計なこと喋ったと思ったのに。
(それにしても、何でカナがそのことを…)
「ご、ごめんね。この前チサさんが来た時、カナちんがそんなこと言ってたから気になっちゃって…」
と言うことは、他の覇王3人も知ってるのか…。
だから今朝になって陽嗣先輩が突っ掛かって来たわけね。
全く面倒臭いことしてくれたな。
「他には、何か聞いた?」
「他?んー…リカのお母さんが伝説のヤンキーってことと、今言った昔リカが仲間を失ったってことと、誰かから逃げるために聖学に来たってことくらいかな。あ、それと…」
「それと?」
「あー…ううん、何でもないよ」
「そう…」
母さんのことは一先ず置いとくとして、恐らく口を滑らせたのはカナだけじゃない。
文月さんも、兄ちゃんも、覇王の巧みな雄弁術の前に色々とゲロさせられたんだろう。
でも決定的なことは話してないはずだ。
文月さんはそこまで口軽くないし、兄ちゃんやカナがその詳細まで知っているとは思えない。大方、噂程度のものだろう。
自発的に言ったのか、それとも言わせたのか知らないけど、本当余計なことしてくれたものだ。
「リカが逃げてるのは、その友達から…?」
「………」
「当たってる?」
眉を下げた不安げな表情が恐る恐る言葉を紡ぐ。
兄ちゃんが聖学に来たあの日からずっと気になってたんだろうな。
知りたいのに、聞きたいのに、でも聞いちゃいけないと思って自分の中に仕舞い込んでいたんだろう。
可哀想に。俺のことなんか気にする価値もないのに。
「……そうだね。大方そんな感じだけど、ちょっと大袈裟かな」
「大袈裟?」
「だってもし逃げて来たとしても捕まったら殺されるわけじゃないんだから言い方が仰々しいと思ってさ」
「でも酷い目に遭ったりしない?」
「どうだろう。ぶん殴られるのは確実だけど」
「な、殴られるの!?こんな可愛いリカを!?じゃ、じゃあ絶対見つかっちゃダメだよ!俺絶対リカのこと守るから!」
「じゃあ俺の代わりに殴られてくれる?」
「当然だよ!リカには指一本触れさせないからね!」
「ははっ、未空が言うとマジでやりそうで怖いわ…」