歪んだ月が愛しくて2
「我孫子くん」
不意にアゲハが我孫子の名前を呼んだ。
「席に着いてはどうかな。まだ会議は終わってないよ」
「……邪魔すんじゃねぇよ。折角立夏と会えたんだからもうちょいゆっくり喋らせろや」
「今はまだ会議中だよ」
その声はいつもの高揚したものと違ってどこか落ち着いていた。
そんなアゲハに俺は違和感を覚えた。
「テメーに指図される覚えはねぇよ」
「指図なんてとんでもない。ただ立場を弁えろと言ったまでさ」
「あ?」
「彼はね、君のような下賎な人間が気安く触れていい人ではないんだよ」
その言葉を引き金に我孫子はアゲハの元まで歩み寄りその胸倉を掴んで自身の方に引き寄せた。
「テメー…何様のつもりだ?自分の立場が分かってねぇのはテメーも同じだろうが」
「否定はしないよ」
今にも殴りかかりそうな我孫子にアゲハは顔色一つ変えることなく平然と答えた。
「しかし君と一緒にされるは心外だな。僕は君と違って誰かさんの後ろに隠れてこそこそと動き回るドブ鼠に成り下がったつもりはないからね」
「っ、テメー!!」
「アゲ…っ「そこまでです」
我孫子がアゲハに向かって拳を振り翳した瞬間、九澄先輩の冷たい声色が我孫子の拳をピタッと止めさせた。
「まだ会議は終わってません。喧嘩したいなら止めませんが会議が終わってからにして下さい」
「皇…」
「僕としたことがつい熱くなってしまって申し訳ない。機嫌を損ねないでくれたまえ」
「損ねてません。早く席に着いて下さい。総括をします」