歪んだ月が愛しくて2
「では本日はこれで解散とします。皆さんお疲れ様でした」
その言葉を合図に出席者全員が一斉に立ち上がる。
すると九澄先輩は真っ先に俺の元までやって来た。
「立夏くんお疲れ様でした。ちゃんと起きてましたか?」
「お、起きてましたよっ。九澄先輩が仕事してるのに寝れるわけないじゃないですか」
「ふふっ、ちゃんと見てましたよ。少し揶揄っただけです」
「もう…」
やっぱり子供扱いしてるな。
まあ、実際九澄先輩は年上で先輩だし未空のことも上手くコントロールしてるから俺に対する態度もその延長みたいなものなんだろうけど。
「……でも、少し目が充血していますね」
不意に九澄先輩の手が俺に向かって伸びる。
多分俺のことを心配してくれているのだろう。……分かってる。分かってる、けど。
「、」
ビクッと、無意識に肩が跳ねる。
「え、あ、いや…」
「………」
「す、いません…」
思わず反応してしまった。
勝手に身体が動いて言うことを聞いてくれない。
いつもなら大丈夫なのに。
護るって言ったのは俺の方なのに…。
気不味い空気が流れる。
「ちゃんと睡眠は取れていますか?」
そんな空気を打ち消したのはふわりと微笑む九澄先輩の笑顔だった。
それからゆっくりと伸びて来る九澄先輩の手がそっと俺の目元に触れる。
何とも思ってないはずないのにそれでも九澄先輩は俺のことを心配してくれた。
「寝てますよ、ちゃんと」
「そうですか…」
「九澄先輩も大概心配性ですね。何か会長みたい」
「それはあまり嬉しくありませんね」
「あははっ、確かに」
まさか図星を突かれるとは思わなかった。
九澄先輩の指摘通り最近睡眠が浅い。
元々熟睡する方ではなかったが最近は特にそうだ。
理由は分かってる。分かっているからこそどうすることも出来なかった。
カナが転入して来たと聞いたあの日から5年前のあの光景が夢の中で何度も繰り返されていた。まるで俺の存在を否定するかのように何度も何度も。