歪んだ月が愛しくて2
自覚
「シロって色白だよな」
「……は?」
いつだったか、アイツは俺を見てそう言った。
本来の黒髪から突然変異した忌々しい髪を指で梳きながら。
「いきなり何だよ、気持ち悪ぃな」
「何か髪も肌も本当真っ白でいつの間にか消えて見えなくなっちゃいそう…」
「おい、会話する気ねぇだろう」
俺の髪を触るのはアイツがよくやる癖だった。
俺が自分の髪色を嫌悪していることを知っているアイツは、いつも俺の髪を触りながら「シロの髪って柔らかいな」とか「男のくせに綺麗な髪」とか慰めに近い言葉を掛けて来る。
そんなお世辞は不要だといつも言っていたのだが、それでも一向に止めようとしないアイツに見切りを付けたのはつい先日のことだった。
だからと言ってアイツの言葉を受け入れたわけではないが。
「シロってさ、正体不明のバリバリ怪しい奴じゃん」
「あ?喧嘩売ってんのか?」
「だって俺達シロの本名も住んでるとこもどこの学校に通ってんのかも全然知らねぇし」
「………」
「だからもしシロがいなくなったらどこを捜せばいいのか分かんねぇなって、ふと思ってさ」
「……いなくなるな、とは言わねぇんだな」
「そりゃ今のままずっと一緒にいてぇよ。でもシロにもシロの事情があるわけだし…、俺達の我儘でお前を縛りたくねぇって思っちゃうわけよ」
「我儘、ね…」
「だからって勝手にいなくなっていいって言ってるわけじゃねぇからな。そんなことしたらあの珍獣共が暴れ出すのは目に見えてるし、もしそうなったら俺にはどうすることも出来ねぇし。アイツ等を手懐けられんのはシロだけなんだからな」
「ああ…」
あの時、何でアイツがこんな話を振って来たのか分からなかった。
でも虫の知らせと言う奴か。
アイツは妙に鋭いところがあったし、自己分析能力も高かった。
だからきっと自分の置かれてる状況や立ち位置をよく理解していたんだと思う。
「でももし万が一、俺達の前から急にいなくなんなきゃいけねぇことになったら、その時は何かしらの手掛かりくらい残して置いてくれよな」
「手掛かり?書き置きでもしとけばいいのか?」
「んー、それは何か簡単過ぎて面白くないような…」
「面白さ求めてたのかよ」
あの時、俺がアイツのほんの少しの変化に気付いてさえいれば。
俺がもっと周囲に目を光らせていたら、アイツは今も俺の隣でバカみたいに笑いながら俺の髪を好き勝手に弄っていたかもしれない。
「あ、じゃあこうしようぜ。俺達にだけ分かるメッセージをくれよ。そうすればお前がどこに隠れてようが別人になりすましていようがすぐにお前だって分かるだろう」
「何だよメッセージって。そんな面倒なことしなくてもお前が自力で見つけりゃいいだけの話だろう。この目とこの髪、こんな目立つもん付いてんだから嫌でも俺って分かるだろう。それとも何か、お前はちょっと変装したくらいで俺のことスルーしちゃうわけ?ご自慢の嗅覚はどうしたよ?」
「言ったなこの野郎…。よし分かった。メッセージはいらねぇ。自力でお前のこと見つけてやるよ。どこに隠れてようと、どんな変装をしてようと、何年掛かってもお前のこと見つけ出して俺を挑発したこと後悔させてやるからな」
「あいあい、ガンバレ」
「真面目に聞けぇい!いいか、もし俺がお前を見つけることが出来たらその時は…―――」
公平が大怪我をしたのは、その翌日のことだった。