歪んだ月が愛しくて2
「り、立夏くん…」
青褪めた顔で声を震わす、汐。
一歩、また一歩と、足を進める汐は俺の前で歩みを止めると、突然ガシッと俺の両肩を掴んで強張った顔を近付けて来た。
「ほ、本当に未空のこと、襲ったの、か…?」
「いや、襲ってないけど…、え、何で瞳孔開いてるの?」
顔怖いよ?
「立夏くん!俺の目を見てちゃんと答えてくれ!本当に未空のこと襲って……いや、寧ろ襲われてない!?てか、何で未空と同じベッドで寝たの!?無防備にも程があるよ!もっと危機感を持ってくれなきゃ…いだっ!!」
「立夏くんに無体を働いてるのはお前も一緒だよ」
「テッメー遊馬!いきなり背後から殴るんじゃねぇよ!俺はな、総長の命令通り立夏くんに近付く悪い虫を排除しようとしてるだけじゃねぇか!立夏くんの貞操は俺が守る!」
「えばんな気持ち悪い。それに総長は立夏くんの貞操云々の話はしてなかったし、立夏くんと未空が合意の上で乳繰り合ってたなら俺達に文句を言う筋合いはないだろう」
「ごっ、ごご合意!?ま…まさか……ち、違うよね立夏くん!?立夏くんは未空のこと好きじゃないよね!?付き合ってないよね!?」
「し、しししおっ、脳が、揺れるぅぅ〜」
「だからやめろって」
「ぐはっ!!」
遊馬の蹴りが見事ヒットした汐はみっちゃんの足元まで吹っ飛ばされた。
するとみっちゃんは両手に希と葵を侍らせたまま汐の背中に足を乗せて「いい踏み台が出来た」と喜んでいた。
……うん、ある意味ハーレム。
女王様のみっちゃんにはよくお似合いだけど、絶対にその中には入りたくない。
「ねぇ、頼稀くんと未空は?」
遊馬は寝室の方をチラッと見て尋ねる。
「さ、さあ?着替えてるのかな?」
「ふーん…」
そう言えばさっき部屋を出る時に何か柔らかいものを踏んだ感触があったけど、あれって何だったんだろう。
「ところで、それどうしたの?」
「それ?」
自分の首を指差して何かを知らせようとする遊馬だが、全く心当たりのない俺はただ首を傾げるしかなかった。
「もしかして気付いてないの?」
気付いてない?
何に?
「つかぬこと聞くけど、立夏くんって恋人いないよね?」
「何でいない前提で聞くの?いないけどさ」
「あくまで確認だよ。それにもし立夏くんに恋人がいたら色々と面倒なことになるから事前に聞いて置きたくてね」
「面倒なこと?言って置くけど、俺人のものを奪う趣味はないよ」
「そう言う意味で言ったつもりじゃないけど…。まあ、立夏くんの場合は人のものでも向こうから勝手に寄って来そうだよね。立夏くんって変に甘いところあるし、その上無防備だから冗談とかじゃなくて本気で危機感持った方がいいと思うよ、そっち関係で」
「危機感って…、何?俺タマ狙われてんの?」
「命じゃないけど、まあそれに近いものじゃない。それが良い証拠だよ」
遊馬の指先が俺の首に触れる寸前、誰かの手によって阻まれた。
「……何、それ?」