歪んだ月が愛しくて2



「―――え、東都に?」

「そう、これから皆で遊びに行かない?」



キッチンで未空用の朝食を作っていると、リビングからそんな声が聞こえて来た。



「今日は土曜日だから授業もないでしょう。だから久しぶりに皆で街に行ってみたいなと思って」

「高等部に上がってから皆で遊んだことなかったしな」

「まあ、それはそうだけど…」

「お前、前にボーリングやってみたいって言ってたよな?ゲーセンの近くに新しく出来たみたいで…、それをコイツ等に話したら行ってみようってことになったんだよ」

「夏休みに入ったら中々皆で会えないからね」

「でも今日って、また急だね…」

「どうせ出掛ける予定もなかったんだろう」

「まさかこの僕が直々に誘ってあげてるって言うのに断るはずないよね?僕の慈悲を無駄にするつもり?」



慈悲って…、流石みっちゃんだな。

誘い方が斬新だ。



「い、いや、俺も皆と遊びに行きたいんだけど、今日は尊のところに行こうと思ってて…」

「会うのか?」



そう言って頼稀は少し意外そうな表情で未空を見ていた。



「そ、だね…。ちょっと文句言ってやりたくて…」



その言葉にリビングが静まり返る。
ここにいる誰もが未空の文句の原因に心当たりがあったため、彼等はそれ以上何も言うことが出来なかった。

そして彼等の反応で確信した。
彼等が揃いも揃って俺の部屋に集まった理由も、突然街に行こうと言い出した理由も。



(本当友達想いだよな、皆…)



大方、希か葵辺りが気を利かせて計画を立てて他のメンバーがそれに便乗したってところだろう。
流石俺なんかよりも付き合いが長いだけあってフォローの仕方も完璧だ。



でも今は未空の発言により楽しい雰囲気が一変した。



……仕方ない。

俺も皆に便乗するとしますか。



俺はリビングを出て未空の前に朝食のスクランブルエッグとソーセージ、少し焼いたロールパンの乗った皿を置く。未空には物足りないと思うけど今日のところはこれで勘弁してくれ。
すると未空は椅子に座ったままキョトンとした表情で俺を見上げた。



「だったら会長のところに行った後で出掛けようよ」

「え?」

「未空だって偶には街に出て遊びたいだろう。折角皆が誘ってくれてるんだし、チャチャッと朝飯食って会長のところに行けば昼前には街に着くって」

「リカ…」

「それに……ジャジャーン!あーら不思議、こんなところに焼肉食べ放題のチケットが!何と時間無制限で1人2980円!しかも期限が今月一杯!これを逃す手はないよ!」



俺がポケットから取り出したチケットを未空の前にチラつかせると、未空は口を開けたままポカンとしたかと思いきや突然ぶはっと吹き出した。



「……ぷっ、あはははっ!や、焼肉って…、リカそんなに肉好きだったの?てか、何か通販番組のおばちゃんみたい!」

「えっ、そ、そう?」

「うん…、でも、俺も焼肉好きだよ」



未空は俺の手からチケットを奪うと。



「それに無駄にしちゃうのは勿体ないもんね」



ひらひらと、未空の手の中でチケットが揺れる。

そう言って未空が照れたように笑うから俺にまで伝播した。



「よーしっ、じゃあとっとと朝飯食って尊のところに行って来るね!リカ、朝飯作ってくれてありがとう!いっただきまーす!」

「召し上がれ」



未空は宣言通り勢い良く朝食に食らい付いた。
早食いの未空のためにコップに冷たい麦茶を注いで持って行く。



「あのチケットって新歓の…」

「うん、頼稀が預かっててくれた新歓の景品。こう言う時のために取って置いたんだ。……あ、勝手に決めちゃったけど皆も焼肉で良かった?」

「それは構わないけど、1人2980円って安過ぎ。まさか家畜の餌じゃないだろうね?」

「何言ってんだよ邦光。庶民の食事はいかに安く沢山食べれるかが重要なんだぞ。それなりの誘い文句じゃないと客は釣れないって」

「それにしても破格の値段だよね。今時1人2980円で食べ放題やってたらお店は儲からないのに」

「だから景品なんだろう」

「ま、まあ、庶民代表の君達が言うなら間違いないんだろうけど…」

「ああ、リカと初めての焼肉デート楽しみだなぁ〜!」

「パン食いながら焼肉食う妄想はやめて、恥ずかしいから」

「それにしてもいいな未空くん。立夏くんにご飯作ってもらえて」

「そうそう、昨日も立夏がカレー作ってやったんだろう。残りとかないの?俺も食べたいんだけど」

「それが…、最初は作り過ぎたと思ったんだけど、思いの外未空がおかわりしてくれたからもう空っぽで…」

「リカが作ってくれたカレー超美味しかったよ!リカは料理上手だからいつお嫁に行っても大丈夫だね!この朝飯も美味しいし!」

「美味しいって言ってくれるのは有難いけど、せめて嫁じゃなくて婿って言ってよ」

「クッソ!未空の奴、自分だけ立夏くんに飯作ってもらいやがって…っ」

「ムフフ、いいでしょう。昨日は手料理だけじゃなくて風呂上がりに髪も乾かしてもらったし、朝まで一緒のベッドで寝てたもんね。ああ、俺を後ろから抱き締めて眠る程良い柔らかさ、お風呂上がりのいい匂い…、昨日の俺は思ったよ、これが新婚だってね!」

「展開早いな」

「そもそも立夏くんって結婚してたっけ?」

「してるわけねぇだろう」

「それ以前に年齢でアウトでしょう。因みに同性婚は限られた地域でしか認められてないしね」

「そんな身も蓋もないこと言わないでよ!いいじゃん、これから結婚すれば!18になるまで俺待つよ!だから結婚しようリカ!」

「なっ!?お前抜け駆け…、じゃなくて!立夏くんが優しいからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!立夏くんと結婚するのはお…「調子に乗ってんのはお互い様だろう」


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