歪んだ月が愛しくて2
それから朝食を食べ終えた未空は、一旦自分の部屋へ戻り着替えを済ませてから会長の元に向かった。
その間、俺は朝食の後片付けや着替えなど細々した作業に取り掛かり、頼稀以外の皆は全員分の外出届を提出するために管理人室へ向かい、後程正門前で合流することとなった。
「で、頼稀が残った理由はこの前お願いしたあれ?」
唯一部屋に残った頼稀はリビングのソファーに浅く腰を掛けて身体の中心で両手を軽く握った前屈みの体勢で話し始めた。
「ああ、葵のダチについて調べたぞ。まず名前は杜山史和。家族構成は両親と弟の4人家族。葵とは同い年で家が隣同士の幼馴染み。東邦高校の1年で帰宅部。1年前に地元の連中を集めてチームを結成し総長を務めている。まあ、基本情報はこんなところだ」
「入院先は?」
「白羊区にある龍鈴寺総合病院」
「“龍鈴寺”?」
あれ、その名前。
確かアイツの苗字も同じ“龍鈴寺”だったような…。
「お前の考えている通りだ」
「、」
「でも安心しろ。奴はお前が姿を消したと同時に海外に連れ戻されたから現在の拠点はあっちだ。万が一にも鉢合わせる可能性はない」
「そう、か…」
無意識に左胸を掴む。
アイツのことを考えると胸が軋む。
アイツには嫌な選択をさせてしまった。
……いや、そもそも選択すらさせてもらえなかったはずだ。
アイツの立場を考えると仕方ないことかもしれないが、アイツの家族に好印象を抱けない俺からしてみたら素直に送り出せない自分がいた。
(ごめん、な…)
目を瞑ると、瞼の裏に蘇るアイツの姿。
俺の名前を囁く優しい声と、壊れ物のように扱う躊躇するような仕草と恥ずかしそうな表情、そして俺だけを映す紫の瞳を。
―――シロ、さん…。
手放すべきじゃなかったのかもしれない。
もう、今更だけど。
「本当に、会いに行くのか?」
「……ああ」
本当は分かってたんだ。
俺が何も言わずに消えることでアイツ等を傷付けるかもしれないって。
分かってたのに。
少し考えればそれがどれほど愚かな行為か気付いたはずなのに。
『何もかも自分のせいにすれば現実を見ずに済んだか?自分の境遇を不幸だと勝手に決め付けて、一生テメーの殻に閉じ篭って逃げ続けるつもりか?』
本当、その通りだよ。
「今日、隙を見て抜ける」
「……どうしても行くのか?お前にとってあそこは嫌な思い出しかねぇのに、何でそこまでして無理する必要がある?」
「頼稀ってさ、やっぱりアゲハの従者なんだな。俺を甘やかすのが癖になってんじゃねぇの?」
「甘やかしてるわけじゃない。必要ないと判断したまでだ」
「それでも行くよ。直接会って確かめたいことがあるから」
「……分かった。もう何も言わない。但し、汐と遊馬を連れて行け」
「いらねぇよ。3人も抜けたら目立つだろう。何のために頼稀に調べてもらったと思ってんだよ」
「何かあったらどうするつもりだ?お前が直接動いたと知られる方が何かと面倒なことになるぞ」
「動かないよ。ただ見舞いに行くだけ」
「それでもどっちかは付ける。これ以上は妥協しない」
「あいあい…」
本当、オカンなんだから。
どの口が甘やかしてないって言ってんのかね…。