歪んだ月が愛しくて2



「僕は別にいいけど…」

「ダメだ」



みっちゃんが言い掛けたところで頼稀の声が割って入る。



「自分の身内の悪い噂を聞いて何になる。やめておけ」

「は?身内?」

「、」



ハッと、自分の失言に気付いた頼稀が咄嗟に口元を手で押さえた。
頼稀にしてはしょぼいミスで、俺は腹の底から湧き上がる冷笑を抑えられなかった。



「まさか頼稀にそう言われるとはね…」

「ちがっ」

「まあ、そうやって括られるのは仕方ないけど、俺的にはあれと身内なんて死んでも御免だよ」



にんまりと口元を歪めて微笑めば、皆の動きがピタッと止まる。



頼稀は申し訳なさそうに顔を歪め、汐と遊馬はグッと両手を堅く握り締めて生唾を飲み、葵と希とみっちゃんは純粋に驚いている様子を見せた。
無駄に高級車なだけあって外の雑音が一切聞こえず、車内は息苦しいほどの静寂が支配した。




「―――とまあ今ので分かった通り、俺鏡ノ院のこと大嫌いだから遠慮せずにバンバン言っちゃってよ」



へらっと、笑う。

殆どの皆が口を噤む中、みっちゃんだけは仕方ないと言わんばかりに溜息を吐いて口を開いた。



「……さっき武藤も言ってたけど、鏡ノ院家は表御三家も無視出来ない存在で色んなところに幅利かせてるから政財界では“裏の支配者”なんて言われてるんだよ。とは言え表御三家と表立って対立しているわけじゃなくてあくまで影響力があるってだけ。鏡ノ院家の歴史は長くてあの神代家に次ぐ歴史がある由緒正しい家柄で七名家の一つだからね。だから鏡ノ院家の人間が何か問題を起こしても大抵のことなら握り潰せるし、その問題に見て見ぬふりをして平然と付き合ってる連中も多い。そのくらい鏡ノ院家の影響力は大きいんだよ」



だから表御三家も無視出来ないと…。

成程ね。



「但し、あくまで財界のトップは表御三家。特に神代家は政界・財界共に頂点に立つ存在で実質天皇や総理大臣と同等の権力を持ってる神的存在だから、いくら鏡ノ院家の影響力が大きくても神代家の前では赤子も同然ってことは覚えといて」

「分かった」

「話を戻すけど、その良くない噂ってのは正直色々あり過ぎて一から全部説明してたら日が暮れるよ。それにあくまで噂だから確たる証拠はないしね。だから表御三家も鏡ノ院家に手が出せないの」

「じゃあ最近の噂は?みっちゃんが知ってる範囲でいいから教えてよ」

「んー…最近って言ってもここ数年当主の姿は見てないし、後継者の孫も海外に留学中だしこれと言った噂は…」



姿を見せない?

あの男が?



何か、妙に引っ掛かるな…。



「あ、でも当主の娘が家を出て一般人の男と結婚したってのは聞いたな。それで娘がいなくなった心の穴をペットで埋めてるってのも聞いたよ。後は社員が自社ビルから飛び降りたとか…」

「飛び降りた?自殺ってこと?」

「多分ね。でもそれは然程珍しいことじゃないよ。鏡ノ院グループはブラックで有名だから」

「ふーん…」



つまり鏡ノ院は常に黒い噂が飛び交っていると言うことか。
でもそれを家柄だけでカバーするのにはいつか限界が来るはず。
鏡ノ院を潰すとしたら確たる証拠が必要だな。



「で、でも立夏くん、何で鏡ノ院家のことが知りたいの?それに邦光くんに聞くより理事長に聞いた方が正確だと思うけど…」

「んー…知りたかったのは万が一に備えてかな。それに文月さんに聞いたところで正確な情報は得られないから客観的な情報が欲しかったんだよね」

「万が一って?」

「万が一は万が一だよ。自分の身は自分で守らないとね」



そう言って口角を上げると、頼稀以外の5人は不思議そうな顔していたが、頼稀だけは俺から視線を逸らして窓の外を眺めたまま何も言わなかった。


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