歪んだ月が愛しくて2



「坊ちゃん、間もなく白羊区に入ります」

「目的地までは?」

「約10分ほどで到着致します」

「分かった」



東都三大副都心の一つである白羊区は世界有数のターミナル駅である白羊駅を中心に商業、ビジネス、文化、そして住宅地が混在する複合的な街である。
日本を代表する歓楽街を持つほど眠らぬ街として賑わいを見せる一方、都会のオアシスとして親しまれる緑豊かな庭園もあり、独特な魅力を持つ街となっている。
しかし、それは表面的な部分に過ぎない。
日本を代表する歓楽街と繁華街が白羊駅を挟んで混在するこの地域の評価は用途や立場によって異なるだろう。
実家が白羊にある俺からしてみたら、これほどまでに怖い地域はないと思っている。ヤクザと半グレと一般人が混在する地域なんて、他所から遊びに来るだけならまだしもとてもじゃないが子育てには不向きな街だ。いくら住宅地と歓楽街が離れていても同じ地域にある以上少なからずその影響を受けてしまうのだから。



(俺のようにね…)



そして約10分後、白羊駅を降りてすぐのところにある繁華街のボーリング場の前で車が止まった。
運転手が後部座席のドアを開けてくれたので俺達は順番に外に出る。
外に出た瞬間に感じたのは、遠巻きにこちらをチラチラと見て来る複数の視線だった。
まあ、こんな繁華街の真ん中にリムジンが止まってたら誰でも不審がるわな。しかも今日は休日だからいつもより街に人が出てるだろうし。



「じゃあ終わったらまた連絡するから」

「畏まりました」

「ありがとうございました」

「皆様、お気を付けていってらっしゃいませ」



車がいなくなったのを確認して頼稀がどこかに電話を掛けた。



「おい、お前今どこにいる?………あ?もうちょっと掛かる?………ああ、分かった」



頼稀は少し面倒臭そうな雰囲気を出して電話を切った。



「今の電話って未空?」

「ああ。もう少し掛かるから先に始めててくれとさ」

「はぁ?仙堂のくせにいつまで僕を待たせとくつもり?折角この僕が気を遣って誘ってやったって言うのに」

「まあまあ、邦光くん落ち着いて。今日の趣旨は未空くんを元気付けるのが目的なわけだし、喧嘩はしない約束でしょう」

「そうそう。折角邦光と頼稀が率先して未空を励まそうと動いたんだから誤解される発言は慎もうな」

「え、今日のことは2人が計画したの?」

「ち、違う!僕は別に…っ」

「……計画したのは希と葵だ。俺はあくまで提案しただけだ。丁度予定も入ってなかったからな」

「ぼ、僕だってそうだからね!」



いやいや、その反応はどう見ても図星でしょう。
否定すればするほど肯定してるようなものだから。



でも、そっか。

頼稀とみっちゃんが未空のために…。



「ありがとう」



頼稀とみっちゃんの手を握ってそう言うと、2人は顔を真っ赤にして込み上げる羞恥心を誤魔化すように慌てふためいた。



「っ、」

「だ、だから、僕は何も…、」

「はいはい。じゃあそう言うことにして先に中に入って未空のこと待ってようよ」

「だ、誰があんな奴待つもんか!僕は先に遊んでるからね!」

「頼稀、どっちが良いスコア出せるか勝負しようぜ」

「お前、本当勝負事好きだよな…。お前の前世はギャンブラーか何かか?」

「だって面白そうじゃん」

「僕も勝負したい!僕、立夏くんには勝てる気がするんだよね!」

「奇遇じゃん。俺も葵には勝てる気がする」

「むぅっ、絶対負けないからね!」

「どうせなら皆で勝負しようぜ!勿論、負けた奴は罰ゲームな!」

「公共の場で校歌斉唱とか?」

「またかよ!?」


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