歪んだ月が愛しくて2



「言い訳するつもりはねぇが、確かに昔は適当な女を抱いて処理してた時もあった。だがお前が生徒会に入ってからは街に行く頻度も減ったし、女とだってヤってねぇよ」

「え、何で?もしかしてそう言う対象が異性から同性に変わったってこと?それともヤり過ぎてその歳で不能に…「ぶっ飛ばすぞテメー」

「すいません」



いや、流石に本気で不能だとは思ってないよ。

ただこの気まずい空気をどうにかしたいと思っただけなのに。



「別に男が好きなわけでも不能でもない。ただどうでもいい人間を抱いて欲を吐き出しても満たされないことに気付いただけだ」

「それ、って…」



紫煙を吐き出しながら俺を見つめる会長の瞳がいつにも増して不安げな様子だった。
強気で傲慢な口調とは裏腹に、俺を映し出す黒曜石が縋るような視線を送っているように見えるのは気のせいだろうか。



……いや、気のせいじゃない。

会長の瞳が何かを訴えるように真っ直ぐに俺を見つめていた。



体育祭の一件以来、ずっと妙な違和感が残っていた。
あの日、俺にしたことに対して何のリアクションも見せない会長を見てしまったから、俺自身も理解出来ない気持ちが胸の奥底で燻っていた。
不可解な感情を持て余し、原因の一端を握る会長に文句を言ってやりたくても、何故か自分からその話題に触れることに躊躇ってしまう。
完全に逃げ越しの俺は会長に忘れてもらうことで全てをなかったことにしたかった。
でも会長の瞳がそれを許さないと言わんばかりに訴えて来るものだから俺も完全に忘れることが出来なくて、自分に都合が良い部分だけを切り取って忘れたふりをしていただけだった。



「す、きな人が、いるんですね…」

「……ああ」

「、」



あからさまに顔を背けてしまった。
こう言う雰囲気に慣れてないせいで俺を真っ直ぐに見つめる会長の目を直視することが出来ず、少し離れた場所でボーリングを楽しむ未空達を見てやり過ごそうとした。



煙草を押し潰す音が聞こえる。

その音に意識が集中する中、ふと会長が俺の目の前までやって来た。



「だから小牧とは死んでも何もない。今も昔も、これから先もアイツと一線を越えることは絶対に有り得ない。寧ろこっちから願い下げだ」

「べ、別に、そんなこと俺に宣言しなくても…」

「お前に誤解されたままだと俺が困るんだよ」

「は…、はぁ!?何それ、意味、分かんないよ…」



至近距離から食い入るような視線を感じて居心地が悪い。
俺の反応を探っているような感じがして意地でも会長と目を合わせたくなかったのに、突然腕を掴まれて強引に引き寄せられた。



「だから、こう言うの見せられるとマジでムカつく」

「え?―――っ、」



会長は俺の耳元で忌々しそうに吐き捨てた直後、何故か俺の首元に顔を埋めたかと思えば何の脈絡もなく噛み付かれた。
あまりにも突然だったため碌に抵抗することが出来ず、尖った歯がぐっと首筋に食い込む。
あまりの痛みに一瞬眉を顰めて声を上げそうになったが、ここが公共の場だと言うことを思い出して何とか声を押し殺すも、会長はそれすらも気に食わないようで噛み痕をなぞるように生温かい舌が首筋を這う。



「な、にして…っ」



俺は噛まれた部分を手で押さえて会長を睨み付ける。



「上書き」

「はぁ!?上書きって何の、こと…」



そう言い掛けた時、不意に今朝のやり取りを思い出した。
確か今朝もこんなやり取りを未空と汐がしていた気がする。
あの時は未空が勝手に付けたキスマークを見て汐が揶揄って来て………ん?待てよ。
そう言えば未空が付けたキスマークも首筋にあって、会長に噛み付かれたのも同じところで………あれ、てことはもしかして上書きって…。


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