歪んだ月が愛しくて2



「仕方ない。俺達だけで先に行ってるか」



頼稀くんのその言葉は了承の合図。
後は俺が皆に気付かれないようにこっそりと抜ければいいだけ。



そう思っていた矢先、葵がとんでもないことを口走った。



「立夏くんが抜けるなら僕も少し抜けていいかな?」

「アオも?」

「武藤も何か用事があるわけ?」

「実は前に話した僕の友達が白羊区内の病院に入院してるんだ。だから少しだけ顔出しに行こうかと思って」

「、」



その言葉に耳を疑った。



葵が病院に行く?

立夏くんがこれから行こうとしているところに?

それでもし立夏くんと鉢合わせしたら………ダメだ。

例え時間をずらしたところで引き返して来たら言い訳出来ねぇし、もしその場で上手く誤魔化せたとしても何かしらのシコリが残っては意味がない。



どうする?



チラッと、立夏くんを見る。
でも平然としている立夏くんの表情からは何も読み取れなかった。



「友達の見舞いか?」

「うん。先週は行けなかったから今週は絶対行こうと思ってたんだ」

「そうか…」



頼稀くんもこれ以上は追及出来ないか。
下手に引き止めたら逆に怪しまれるから何も言えねぇし、どうすればいいんだよ。



「友人のお見舞いと言うことは、その友人は先日東都で起きた族狩りの被害者の方ではありませんか?」

「え、はい。そうですけど…」

「もし良ければ僕達も同行させてもらえませんか?」



それは予想だにしない言葉だった。



「え、皇先輩が…」

「はい」

「でも、何故ですか…?」

「勿論、お見舞いですよ。それと当時の状況を本人から直接伺いたいと思いましてね」

「そ、それって史くんに…っ、いえ、僕の友達にあの日のことを思い出させるってことですよね?でしたらお見舞いは遠慮して下さい」

「何故です?」

「史くん…、凄い怪我してたんです…。だから、きっと怖かったはずなんです。それでも僕の前では何ともないように振る舞って…。だからもうこれ以上あの日のことを穿り返して史くんを傷付けたくないんですっ!!」

「アオ…」

「………」



葵が声を荒げるのは珍しい。
しかも覇王に対して無礼とも言える振る舞いをするとは、余程その友達のことを大切に思っているに違いない。



でもな…、



葵には悪いけど、それって誰目線で物言ってんだ?



「君の考えは分かりました」

「分かって頂けたなら…、」

「ですが、当時のことを思い出して欲しくないと言うのは君の考えですよね。僕が知りたいのは君の意見ではありません」

「っ、あ…、貴方だって史くんの気持ちは分からないじゃないですか!だから不用意なことは言わないで欲しいとお願いしているんです!」

「でしたらこうしましょう。君が言うようにその友人が当時の状況を思い出したくないと言うならばそれ以上のことは聞きません。そもそも初めから無理強いするつもりはありませんでしたし、少しでも犯人捜しの材料になればと思っていただけですから。まあ、犯人捜しは既に警察が動いていると思いますけどね」

「犯人…?つまり皇先輩は白夜叉を見つけて警察に突き出すつもりなんですか?」

「いえ、僕の目的はあくまで警察に突き出すことではなくこれ以上の被害を生まないことです。最近は大人しくなったようですが、いつまたどこで狩りが再開するか分かりませんから一刻も早く犯人を見つけ出さなくてはなりません。そのためには君の友人の協力が必要不可欠だと思いこのようなお願いを申し出た次第です」

「………」

「無理にとは言いませんがね」

「……分かりました。史くんが話せる状態でしたら僕は何も言いません」

「ありがとうございます」

「いえ…、白夜叉を許せないのは僕も同じですから…」



その言葉に無意識に拳を握る。



葵が白夜叉を許せない気持ちはよく分かる。
俺も立夏くんに出会う前までは白夜叉を許せないと思っていたから。

今でも偶に考える。
本当に白夜叉を許して良かったのか、もしかしてそれは仲間を裏切ることになるんじゃないのかって。
でもやっぱり許す許さないの前に立夏くんへの想いが先走っちゃって、気付いたらいつも立夏くんのことを目で追っていた。
そうなった時点で俺の中に白夜叉を憎むって選択肢はなくなっていて、今ではすっかり俺も立夏くんに夢中な1人としてカウントされていた。



そんな俺が今の葵の発言に何とも思わないわけがなかった。


< 568 / 651 >

この作品をシェア

pagetop