歪んだ月が愛しくて2
「あの、皇先輩…、先程は声を荒げてしまって申し訳ありませんでした」
「気にしないで下さい。僕の方こそ君の気持ちを考えもせず不躾なことを言いました。謝罪します」
「や、やめて下さいっ!皇先輩が僕なんかに謝罪しないで下さい!こんなところ親衛隊の人達に見られたら僕リンチされちゃいますから!」
「僕の親衛隊にそこまで過激な人はいませんよ。それにしても…、君にとってその友人はとても大切な人みたいですね」
「えっ!?」
「そりゃそうだよ。誰だって彼氏が怪我したら取り乱しちゃうって」
「おや、その友人は君の恋人でしたか。それは失礼しました」
「ちっ、違います!史くんはただの幼馴染みで恋人なんかじゃ…っ」
「武藤、見苦しいよ」
「その顔は肯定してるようなものだしね」
「ああ、俺のエンジェルがとうとう他の男のものに…」
「そもそもお前のじゃねぇけどな」
「だから僕と史くんは何もないの!ただの幼馴染みで…―――」
まあ、どっちにしろ病院には行くってことか。
それも葵だけじゃなく覇王までも…。
しかも覇王の目的は立夏くんと同じ。
これではいくら立夏くんでも打つ手がない。
立夏くんはどうするつもりなんだろう。
「なあ、行くなら早く行こうぜ」
「そうですね。すぐに車を手配します」
「アオ、俺もお見舞いに行っていい?」
「勿論いいよ」
「俺も行く」
「俺も俺も」
「僕も行くよ。君の男をこの目でちゃんと見て置きたいからね」
「それは俺も気になるな」
「もう!だから違うんだってば!」
おいおい、俺と立夏くん以外全員かよ。
しかも頼稀くんまで行くってことは何かしらの考えがあるんだろうけど。
俺には頼稀くんの考えも、立夏くんの考えていることも分からない。
だって俺バカだし、遊馬みたいに人の考えを読むとか苦手だし。
だからこう言う時は何もせず、上の考えに従って行動するに限る。
今の俺は立夏くんの護衛だから立夏くんの意見を尊重し、それに従うのが俺の役目だ。
余計なことは考えるな。
俺はただ立夏くんの望みを叶えればいいんだから。
「じゃあ立夏くんはここで…「葵」
途端、立夏くんは葵の言葉を遮った。
「俺も行っていいかな?」
「え?でも立夏くんは実家に行くんじゃ…」
「そう思ってたんだけど、皆がお見舞いに行くなら俺も便乗させて欲しいんだ。その気にならば実家にはいつでも帰れるけど、葵の友達に会えるのは今日しかないし。……ダメかな?」
「ダメなわけないよ。立夏くんも一緒に行こう」
「ありがとう」
ゔっ、葵に対する上目遣い…、可愛い可愛い過ぎる!!
俺もそんな顔間近で見てみてぇ!!
……でも、まあそうなるよね。
俺が言うのも恐れ多いけど、今回ばかりはそれが一番無難な選択だと思うよ。
「お前も行くのか?」
「何?俺が行っちゃ迷惑?」
「……いや」
神代会長の意味深な発言に内心ヒヤヒヤしているのは俺だけだろうか。
立夏くんは「いやって、何その間は?」と苦笑しながら誤魔化してるけど、本心ではきっと…。
「汐、お前も行くよな?」
「………うん」
何か、変な感じがする。
何かが喉に詰まったような、胸騒ぎのようなモヤモヤした感じが消えない。
神代会長のせいか?
それとも葵が急に見舞いに行くって言い出したからか?
………分からねぇ。
でも立夏くんにとって何かよくないことが起こりそうな…。
そんな予感を拭えないまま、俺達が乗る車は龍鈴寺総合病院へと向かって走り出した。