歪んだ月が愛しくて2
「突然訪ねて来てしまいすいません。こちらお見舞いの果物です。良かったら召し上がって下さい」
「どうも…」
九ちゃんはここに来る前に用意させたメロンの入った果物セットを杜山くんに手渡して本題に入る。
「怪我の具合はどうですか?」
「ほぼ治りました。来月の頭には退院出来ます」
「それは何よりですね。そんな君にこんなことを尋ねるのは忍びないのですが、もし良ければ被害に遭った時の状況を詳しく聞かせてもらえませんか?」
心なしアオの表情が強張った。
「被害って…、怪我をした時のことが知りたいってこと?」
「はい」
「……何のために?」
「勿論、これ以上の被害を出さないためにですよ」
「まさか、族狩りの犯人を捕まえる気?だったら悪いことは言わないからやめときなよ。アンタ達じゃあの連中は手に負えないから」
「連中?つまり複数犯と言うことですか?君を襲った犯人はあの白夜叉ではないんですか?」
「は?誰がそんなこと言ったよ?」
「……違う、と言うことですか?」
「違う」
その言葉に大して衝撃は受けなかった。
ヨージから事前に偽白夜叉説を聞いていたから杜山くんの話を聞いて「ああ、やっぱり」くらいにしか思わなかった。
多分それはみーこ達も同じで、“B2”である頼稀達も何の反応も見せないことから考えて初めから白夜叉が族狩りの犯人でないことを分かっていたみたいだった。
「ち、がう…?」
でも、アオだけは違った。
「ああ、俺達のチームを襲ったのはあの人じゃない」
パサッと、アオは手に持っていたお見舞いの花束を床に落とした。
その顔は信じられないと言わんばかりに元々大きな目を更に大きく見開いた。
「で…、でも史くん言ってたじゃん!史くんを襲った人は自分のことを“白夜叉”って言ってたって!」
「ああ、確かにそう名乗ってたよ。でも俺達を襲ったのが本物だったら絶対にそんな風に名乗ったりはしない」
「本物だったらって…」
「君はその襲撃犯が白夜叉の名を語った偽物だと言うのですか?」
「はい」
迷いなく断言した、杜山くん。
その表情からは揺るぎない自信みたいなのが滲み出ていた。
「やけに自信があるんだな」
「……あの人は、絶対にあんなことはしない。それにもしあの人だったとしてもきっとそれだけのことを俺達がしてしまったからだ。そうじゃなきゃあの人が態々表に出て来るはずがない」
「おいおい、さっきから話聞いてたら白夜叉のことを“あの人”って呼んでるわけ?もしかして信者か何かだったりして?」
「族やっててあの人に憧れない奴はいない。少なくとも俺達のチームであの人に憧れてない奴は1人もいないよ」
「ハッ、とんだ信者様だな」
へぇ、やっぱり白夜叉って凄い人なんだ。
決して良いことをやってるわけじゃないのに人々の注目を集め、白夜叉に憧れる人が後を絶たない。
差し詰め主人公のピンチにいつも駆け付けてくれるダークヒーロー的存在なのかもしれない。
そう考えるとやっぱり一度でいいから本物に会ってみたいって欲求が大きくなる。
ヨージは白夜叉に対してあんまり良い印象を持ってないみたいだけど、みーこ達はどう思ってるのかな。
「それだけじゃない。あの人はあの事件以来、東都から姿を消してしまったから…。だからあの人がまた族狩りを始めたとはどうしても思えないんだ」
「あの事件と言うのは側近の1人が“鬼”にやられたと言う…」
「そうだよ。あの人がいなくなって側近の人達が街中を捜し回っても未だ見つからないみたいだから、もうこっちの世界には戻って来る気がないんじゃないかと思って…。だからあの人が族狩りの犯人なわけがないんだ」
杜山くんがベッドに座ったまま真剣な表情で白夜叉について語る最中、呆然と立ち竦むアオの代わりにリカは床に落ちたままの花束を拾い上げた。