歪んだ月が愛しくて2
立夏Side
杜山くんの病室を出て少し歩くと、談話室の隅で蹲る葵とそんな葵を心配して優しく声を掛ける希達を見つけた。
「何で…、何で史くんは自分を襲った人を、あんな風に庇うの…っ」
「葵…」
「まあ、男って強い奴に憧れる傾向があるから仕方ないんじゃないの?」
「でも葵の気持ちは彼にも伝わってると思うよ」
「そうだよ。それにあの友達を襲ったのは本物の白夜叉じゃないんだからそんな目の敵にしなくても…「葵」
態と汐の言葉を遮って葵の傍まで歩み寄ると、葵は「立夏くん…」と縋るような上目遣いで俺を見つめた。
やっぱり泣いてたんだな…。
「立夏くんごめん、僕…どうしても我慢出来なくて…」
「葵が謝ることはないよ。俺の方こそすぐ止めに入れなくてごめん」
「そんなっ、立夏くんは何も悪くないよ!悪いのは全部白夜叉なんだから…っ」
「……うん」
小さくなった葵の身体を支えてソファーに座らせる。
その隣に腰掛けると、葵は俺に体重を預けて寄り掛かった。
「葵は、どうしたい?」
「どうって…」
葵の目元に触れて涙を拭う。
「喧嘩したまま帰ったら次会うのが気まずくなるんじゃない?」
「、」
確信を突くと、葵はハッと我に返る。
このまま葵が帰ったら2人の関係は余計に拗れてしまうかもしれない。
それだけは何としても避けたかった。
喧嘩の原因が俺にあるなら尚更だ。
「俺も…、杜山くんは葵のことをちゃんと分かってると思うよ。どうしてあんな風に言ったのか、どうして葵があんなにも怒っていたのかちゃんとね」
「で、でも…、史くんは白夜叉の話ばっかりで僕の話なんか…」
「ちゃんと2人で話そう、もう一度」
「立夏くん…」
「今度は邪魔者を追い出して2人っきりでさ。そうすれば話が脱線することもないよ」
「……うん」
それから葵は1人で杜山くんの病室に向かった。
途中まで着いて行こうとした俺達だが「1人で行くから大丈夫」とやんわり断られたので引き続き談話室で待機することにした。
「エンジェル大丈夫かな…」
「1人で行くって言ったのは武藤なんだから大丈夫でしょう」
「それに2人で話せばきっと杜山くんの態度も変わると思うし」
「悪ぶってはいたけど根は優しそうな感じだったからね」
「てか、2人っきりで話すってことは頼稀くんや覇王はもうすぐ…」
直後、覇王と頼稀が談話室に入って来た。
その後ろから何故か目をハートにさせた複数の看護師が着いて来ていたが、それを見たみっちゃんが大きな声で「ヤダヤダ、ここにも女狐の群れが…」と嘲笑ったため罰が悪そうにそそくさと仕事に戻って行った。
みっちゃん強し。
「待たせたな」
そう言って頼稀は当然のように希の隣に座った。
「やけに長かったけど大丈夫?」
「ああ、問題ない」
希の問いにそう答えた頼稀だったが、俺にはそれ以上詮索するなと聞こえた。
恐らくそう聞こえたのは汐や遊馬も同様で、彼等はこの場での追及を諦めたようだった。
つまり、希やみっちゃんには聞かれたくないってことか。