歪んだ月が愛しくて2
頼稀Side
1人病院の廊下に取り残された俺は、傷を隠す獣のようにあえて気丈に振る舞う立夏の後ろ姿をただ見つめることしか出来なかった。
その姿が何とも痛々しくて、見ていられなくて、思わず顔を逸らしてしまった。
そんな顔をして欲しくなくて、いつまでも笑っていて欲しくて、そのために立夏を守るって誓ったはずなのに、何で俺はあんな顔をさせてしまったんだろうか。
どこで選択を間違えた?
後悔の波が押し寄せて、一向に引いてくれない。
次に顔を上げた時には既に立夏の姿は見えなくなっていて、俺が顔を逸らしている間に覇王が通り過ぎた気配がしたから、彼等が立夏の後を追ったのは容易に想像出来た。
覇王が…、神代会長が立夏から目を離さないでくれるなら少し距離を置いても問題ないだろう。
今は頭を冷やそう。
今の俺には立夏を追い掛けることは出来ない。
追う資格がない。
『頼稀が俺に生徒会を辞めさせたかったのは、そう言うことだったんだな』
失望と悲しみの混ざった目だった。
裏切りに似た絶望が、グレーの瞳に映し出されていた。
初めから真実を話していればこんなことにはならなかったのか。
……いや、不必要なことを伝えて余計な不安要素を与える必要はない。
そのための俺だ。
俺が見極めて、必要なことだけを立夏に伝えればいい。
グシャッと、前髪を強く握る。
それなのに、俺はどこで間違えた?
何であんな顔をさせた?
俺が今までやって来たことは全部無駄だったの…、
「頼稀」
ビクッと。
背後から降って来た声に思わず肩が跳ねた。
油断していたせいで、聞き慣れた声にも関わらず動揺してしまった。
「ねぇ、頼稀」
「………」
振り返らなかった。
こんなみっともない顔を希の前に晒すことは出来なかった。
「今、痛いでしょう?」
それでも希は俺の背中に向かって言葉を続ける。
「多分、立夏も痛かったんだと思うよ」
「、」
強烈な一言が、グサッと心臓に突き刺さる。
「他人の痛みを100パーセント理解することは誰にも出来ないよ。いくら頼稀が“風魔”でも人の心の内までは分からないでしょう」
「………」
「頼稀は自分の力を過信し過ぎだよ。立夏のためを思ってしたことだとしても、その結果立夏を傷付けたら何の意味もない」
「……ああ」
「まあ、頼稀の凝り固まった考え方は今に始まったことじゃないけど」
「俺の前からいなくなった時もそうだったし…」と不満を漏らす、希。
その言葉の意味を理解した俺は更に自己嫌悪に陥った。