歪んだ月が愛しくて2
俺が最初に傷付けた相手は、希だった。
ガキの頃から言葉足らずで独り善がりな俺は物事を勝手に解釈するところがあった。
「こうするのが誰々のため」とか「これをすれば誰も傷付かない」とか自分の都合の良いように考えて自分勝手に行動していた。
幸い………いや、この場合は皮肉と言うべきか。俺は“風魔”として生を受けたため物事を冷静に分析する思考と、それを行動に移すだけの力があった。
だからアゲハさんとの契約後は自分の気持ちを封印するために希と距離を置き、希に何も告げぬまま聖学への入学を決めた。
そんな俺の行動がどれほど希を傷付けたのか考えもせずに…。
「でも俺は諦めなかったよ。絶対頼稀に文句言って何発かぶん殴ってやろうと思ってたし、頼稀が俺のためにしたことは全然俺のためじゃないってことを分からせてやりたかったから」
俺が聖学に入学した後も、希は俺を諦めなかった。
いや、諦めないでいてくれた。
こんなどうしようもない、俺のことを…。
でも、立夏は違う。
『頼稀が俺に生徒会を辞めさせたかったのは、そう言うことだったんだな』
あの目は、拒絶していた。
自分の内側に踏み込むことを、俺の全てが信じられないと目で訴えていた。
そんな立夏に今更何と言えばいいのか分からなかった。
「立夏がどう思ってるかまでは分からないけど、頼稀が行動に移さなかったらずっとこのままだよ。頼稀はそれでもいいの?立夏のことそんな簡単に諦められるの?」
「……でも、」
「でももへったくれもない。大丈夫。頼稀が間違ったことをしたら俺が何度でもぶん殴って教えてあげるから」
「………」
「そのための幼馴染みでしょう?」
ポンッと、希の手が俺の肩に触れる。
「一緒に謝りに行こう」
「希…」
この手に、俺は何度救われたことだろう。
風魔の次期頭首に選ばれた時も、俺を追って聖学に入学して来た時も、俺が“B2”に入ると言った時も、この手はいつも俺の背中を押して勇気をくれた。
この手があったから俺は…。
「まあ、その前に―――」
「は、―――っ!?」
その瞬間、俺の身体が前方に飛んだ。
完全に油断していたため何の受け身も取ることが出来ず、気付いた時には背中から地面に叩き付けられていた。
……は?
あまりに突然のことで理解が追い付かない。
しかも半端なく背中が痛い。
「口で言っても分からないバカには身体に叩き込んでやらないとね」
いや、この雰囲気からの背負い投げって…。
嘘だろうおい。
てか、俺じゃなかったら確実に首折れてたぞ。
大の字で床に横たわる俺を見下ろすのは、さっきまでのシリアスモードを吹き飛ばすほどの眩しい笑顔だった。