歪んだ月が愛しくて2



陽嗣Side





「もう起き上がってもいいのけ?」

「はい。暫く休ませてもらいましたからもう大丈夫です」

「でもまだ顔色悪いぜ。無理しない方がいいんじゃねぇの?」

「無理なんてしてませんよ。それに折角ここまで来たのに俺だけお預けとか酷くないですか?」

「りっちゃんがそこまでゲーセン好きとは知らなかったね」

「俺だって遊びに来たことくらいありますよ、一応ここの出身ですし」



無駄に煩いBGMと、金属同士がぶつかるジャラジャラとした音が鼓膜を震わす中、りっちゃんはさっきまでの不調を一切感じさせない軽い口調で俺達の前に現れた。
本人が言うようにさっきよりかは回復したみたいだが、まだまだ本調子じゃないのは見え見えだ。
帽子と眼鏡とマスクで顔の大半を覆っていてもそれくらい雰囲気で分かる。





『かい、ちょ…』





(あんな顔、初めて見たな…)



いつも凛として迷いのない強い眼差しが、酷く怯えたように震えていた。

弱々しくて、見てられなくて。

あの禍々しい殺気を放っていた獣と同一人物には到底見えなかった。



「てか、陽嗣先輩に心配されるとは思いませんでした」

「目の前でぶっ倒れそうになったら誰だって心配するでしょうが」

「俺のこと嫌いなくせに?」

「だから嫌いじゃねぇって」



………危なっかしいんだよな、本当。

見極めるとは言ったけど、こうも色んな顔を見せられちゃこっちだって調子狂うっての。



「立夏くん、息抜きしたい気持ちも分かりますが無理は禁物ですよ。体調が悪くなったらすぐに言って下さいね」

「ほら、九澄もこう言ってるぜ」

「だからもう大丈夫だって言ってんのに…」

「お前の大丈夫は信用ならねぇんだよ」

「そこまで言わなくても良くない?」

「事実だろうが」

「俺がいつ会長の信頼を失墜させたんでしょうね」

「自覚がねぇところが悪質だな」

「だからそこまで言う必要ないよね!?」



まーた始まったよ。

人目も気にせず堂々とイチャつくとかマジで仲良しかよ。

てか、こう言う時真っ先に邪魔しに来そうな未空がいねぇ………お、いたいた。



未空は“B2”の兵隊2人と一緒に入口近くのクレーンゲームのガラスに張り付いて何やら真剣な表情で話し込んでいた。



何やってんだ、アイツ…?



他の連中もレーシングゲームや音楽ゲームでそれぞれ遊んでいたため、りっちゃんと尊の痴話喧嘩には気付いていないようだった。
でも時折俺達……いや、りっちゃんに注がれる視線を感じていた。
やっぱりと言うべきか、その視線の正体は風魔のもので、風魔だけはりっちゃんと尊の痴話喧嘩に気付いていながらも止めに入る気はないようだった。



それにしても、あの遠巻きな視線…。

病院を出る際、りっちゃんと何か揉めてたっぽいから気まずくて距離を置いてんだろうけど、こうも分かり易くガン見してたら距離置いてる意味なくねぇか?



そもそも何でりっちゃんと風魔は揉めてたんだ?



2人の会話の内容までは聞き取れなかったが、病室での話は主に族狩りのことだったし、直前の話だってこれと言って変わったことはなかった。
強いて言えば族狩りの話をしてる時、りっちゃんは何の疑問を口にすることなく自然と話に付いて来たことくらいだが…、それが揉める理由に直結するとは考え難い。
まあ、大して2人のことを知らねぇ俺が無駄に考えたところで結論が出るわけねぇんだけどな。
ただうちの王様までとは言わねぇが、“B2”である風魔は事あるごとにりっちゃんのことに首突っ込んで来た前科があるから2人が揉めてんのは何か意外と言うか…、それなりのことがない限り2人がぶつかることはないと思っていた。
今だって風魔が遠目からりっちゃんを見ているのは、りっちゃんに対して後ろめたい気持ちがあるからだろう。
つまり風魔はそれなりのことをりっちゃんにしたってことになるが………ああ、クソ。やっぱいくら考えても分からねぇな。


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