歪んだ月が愛しくて2



そういや、りっちゃんって尊のことどう思ってんだ?



先輩?

仲間?



んー…どれも当てはまるけど、何かしっくり来ねぇんだよな。



りっちゃんの浮いた話と言えば、理事長にファーストキスを奪われたってことと初恋の相手が義理の兄貴だってことくらいだけど……いや、義理の弟にも熱烈な告白されてたな。

尊がりっちゃんに惚れてんのは一目瞭然だけど、りっちゃんから惚れた腫れたの話は聞いたことねぇし、あるとしても臭わせ程度で断言はしなかった。



それが何を意味するか分からないほど、俺はバカじゃない。



本人に自覚があんのか知らねぇけど、りっちゃんは家族の話になると極端に口数が減る。
つまりそれは俺達に触れられたくない何かがあるってことだ。
元々秘密事の多いりっちゃんからしたら触れられたくない部分は多方面にあるんだろうが、今はあくまで色恋沙汰に関してのみ。それ以外のことに関しては自分で言うのもなんだが、そこそこ強引で突っ込んだ質問をぶつけちまったから俺がりっちゃんを嫌ってると思われている。実際嫌いではないけどね。
ただ他人の恋愛に介入するのは流石の俺でも気が引ける。そこに土足で踏み込むほど俺は外道じゃねぇから下手に首突っ込んだりはしないが、りっちゃんにとっての初恋は幼稚園の先生を好きになるみたいな可愛らしいもんじゃないんだろう。いくら本当の兄弟じゃないとは言え、時折見せるあの微妙な雰囲気。こっちまで気遣っちまうよ。
今もまだ初恋を拗らせてるとしたら尊に勝ち目は………いや、例え今は勝ち目がなくてもそれをどうにかしてものにするのが尊だ。
他人に一切興味を示さなかった尊がりっちゃんにだけ見せる執着に初めは信じられなかったが、強引に生徒会に入れたり、自分専属の庶務にしたり、りっちゃんのために態々自分から面倒事に首突っ込んだり、一緒に階段から落ちたり……とまあ色んなことがあったもんで、今では疑う余地もないくらいりっちゃんに骨抜きにされてる尊がそう簡単に身を引くとは到底思えねぇわけよ。



要するに尊に狙われた時点でりっちゃんの運命は決まったも同然ってこと。

ご愁傷様………ってこともねぇか。

りっちゃんも尊のことは憎からず思ってんだろうし。



本人達はあれで隠してるつもりらしいが、2人の雰囲気が体育祭の前後で何かが違っていた。
何が違うのかと聞かれたら「何か」としか言えねぇけど、明らかに変わったのは分かる。
理事長に拉致られたりっちゃんが戻って来て以降の終始不機嫌な尊。そんな尊をさりげなく避けているりっちゃん。
これは俺の勘だけど、多分尊とりっちゃんは………、やめた。
何が楽しくて野郎同士のあれこれを想像しなきゃいけねぇんだか。
いくら幼馴染みでも無理だ。俺にはそう言う趣味はない。
まあ、何にしろ何かきっかけがあれば一気に進展しそうな感じの2人であることに間違いはない。



そうなると未空は…。





『俺、負けないから』



『上等だ』





本当、未空には勝てねぇな。

あんな眩しいくらい真っ直ぐな目で宣戦布告するなんてどんだけ肝が座ってんだよ。

しかも相手はあの尊だぞ。



(あの時、尊もこんな気持ちだったのかね…)



案外子離れも寂しいもんだな。



グイッ。



「陽嗣」

「、」



誰かに腕を掴まれて振り向けば、九澄の顔が至近距離にあって驚いた。



「何をボケッと突っ立ってるんですか?僕達も移動しますよ」

「あ、ああ…。お前だけ?尊とりっちゃんは?」

「未空に呼ばれて先に行きましたよ。僕達も未空のところに行きましょう」

「痴話喧嘩は?」

「尊が立夏くんの煙草を没収して終わりました」

「過保護かよ」

「立夏くんにはそのくらいやらないと伝わりませんからね」

「………」



尊にしろ、未空にしろ、結局はりっちゃん本人が選ばなきゃ何も始まらない。

俺としてはりっちゃんがどっちとくっ付こうが、他の誰かとくっ付こうが大して支障はねぇが…。



「なあ…、お前はりっちゃんのことどう思ってるわけ?」

「はい?何ですか藪から棒に?」

「いいから、正直に答えろよ」

「………」





コイツだけは、





「僕には、貴方だけですよ」





九澄だけは、





「―――とでも言って欲しいそうな顔ですね」





見た目の爽やかさとは裏腹に、性悪で、人一倍捻くれた面倒臭い奴だけど、





「ハッ、それを期待してんのはオメーの方だろうが」

「さあ、どうでしょうね」





コイツだけは、誰にも渡したくねぇんだよ。





「あのぉ〜、すいませぇん」

「私達、さっきからあっちでちょっと見てたんですけどぉ、お兄さん達スッゴイ格好良いですねぇ」





例えそれがりっちゃんでも、





「これから予定あったりしますぅ?良かったら一緒に遊びませんかぁ?」

「んー…どうしよっかな」





どんなに着飾った綺麗な女であっても、





「おや、お友達ですか?随分頭と尻が軽そうなお友達ですね、貴方らしいですけど」

「九澄ちゃん、それって嫉妬〜?」

「寝惚けたこと言ってると頭カチ割りますよ」





(奪われてたまるかよ…)


< 598 / 651 >

この作品をシェア

pagetop