歪んだ月が愛しくて2
第一声は人の神経を逆撫でするような不快なものだった。
俺はギリ許容範囲だったけど、多分尊や九澄からしたら一番嫌いなタイプの人種だろう。女嫌いの未空なんて以ての外だ。
最初、女達は俺と九澄に話し掛けて来たかと思えば、近くでクレーンゲームをやっていた未空と“B2”の兵隊2人、そして尊とりっちゃんまでもを巻き込んで群がって来た。
瞬時に、尊と未空の顔に「不快」の文字が浮かぶ。
よりによって尊と未空を巻き込むとは命知らずな。
俺だけだったら上手く躱してやったものを…。
案の定、尊と未空はまるで汚物を見るような冷たい目で女達を睨み付け、九澄にあってはいつもの外行きの笑顔を外し、自分だけは関係ないみたいな顔をして後ろの自販機に寄り掛かっていた。
りっちゃんと“B2”の兵隊2人は未空に代わってクレーンゲームで遊んでいた。りっちゃんのスルースキル半端ねぇな。
「あたし達ぃ、これからカラオケに行くんですけどぉ、皆さんも一緒に行きましょうよぉ」
「皆さんは1、2、3………7人?あっちの人達も友達ですか?まあ、格好良い人は何人いたっていいんですけど。こっちも後からもう1人来るんで丁度いいですねぇ」
いや、何が?
どこが丁度いいのか分かんねぇんだけど。
しかもりっちゃんのスルーも虚しくちゃっかり数に含まれてるし。ドンマイ。
「んー…悪いんだけど、今日は友達がいるからまたの…、」
「あたし達ぃ、今日は撮影だったんですけど終わったらどっか遊びに行こうって話してて。あ、でぇ、撮影って言うのは雑誌なんですけど“ルビー”って知ってます?あたし達そこの読モなんですよぉ」
聞いてねぇし、知らねぇし、どうでもいいわ。
てか、人の言葉遮ってんじゃねぇよ。
折角こっちが気遣ってやんわり断ってやろうと思ったのに、何かバカバカしくなって来たわ。
そもそもコイツ等程度の女がよくこの面子に気軽に話し掛けられたな。
化粧は特殊メイク並みに上手いかもしれねぇが、元がブスなら何やってもブスのままだし、その上鼻がひん曲がるくらい強烈な香水付けてっから容姿以前の問題だ。
いくら女なら誰でもいい俺であってもこれは生理的に受け付けない。
これじゃあ俺達じゃなくても相手にされねぇだろうな。
「皆さんは何やってる人なんですかぁ?あっちにいる人達はちょっと子供っぽいけど、お兄さん達は何かバンドとかやってそう〜。あたしぃ、読モやってるからそっちの業界にも知り合い多いんですよぉ。今度事務所にお願いしてお兄さん達のこと雑誌に載せてもらえるように頼んでみましょうかぁ?」
そう言って女の1人が俺の腕に抱き付いた。
しかも女はあからさまに自分の胸を俺の腕に押し当てて来た。
こう言う女は珍しくない。
自分にはそれだけの価値があると思い込んでる様が何とも滑稽でどん底に落としてやりたい気分になるが、今は後ろにいる九澄の方が気になってそれどころではなかった。
ふと、後ろを振り返ってギョッとした。
「お兄さんクールで格好良いですねぇ。あたしタイプ〜」
「………」
巻き込まれないように非難していたはずの九澄に女の1人が狙いを定めた。
しかも乳まで押し付けて…。
当然、九澄は何の反応も示さない。
一度でも反応すれば付け上がらせるだけだと分かっているからだ。
俺だって外行きの笑顔を外した九澄が相手にするとは思ってないが、頭に血が上りそうな光景に内心穏やかではいられなかった。
………ん?
待てよ。
女の1人が九澄に狙いを定めたってことは他も…。