歪んだ月が愛しくて2
りっちゃんがいなくなった途端、女は大層ご満悦な様子で尊の腕に自身の胸を押し付けるように抱き付いた。
「これで邪魔者はいなくなったね。ミユねぇ、あの日からずーっとタケルのことが忘れられなかったの。あの時はタケルが酷いこと言うからミユ傷付いちゃったけどぉ、ミユは優しいからタケルがあの時のことを謝ってくれるなら許してあげてもいいよ」
「……あ?」
「あの時、ミユが折角誘ってあげたのに断ったのは偶々機嫌が悪かったからなんだよね?そうでなきゃミユみたいな可愛い女の子の誘いを断るはずないもんね?」
ああ、やっぱこの女無理。
尊じゃなくてもお断りだわ。
何が無理って自己肯定度が半端なく高いところが生理的に受け付けない。
寧ろこの程度の顔と身体で自信満々なところが見てて痛いわ。
一般的には上の中くらいの容姿なんだろうけど、りっちゃんと比べたら月と鼈。
その面でよくりっちゃんに牽制出来たな。
鏡見たことないんじゃねぇの?
そもそもこの女は今の状況をまるで分かっていない。
適当なこと言ってりっちゃんを傷付けたばかりか、無意識にりっちゃんの中の尊の印象を悪くさせて故意に尊からりっちゃんを遠ざけた。
そんなことをしてうちの王様が黙っているはずがない。
「可愛い?ビッチの間違いじゃねぇのか?」
「そ、そんな…、酷いよタケル…。ミユ、そんな軽い女じゃないのにっ!!」
「そうは見えねぇな。俺の腕に乳押し付けて、スカートの中に手突っ込ませて来た奴が白々しいんだよ」
「あれはっ、少しでもタケルにミユのこと意識して欲しかったから…。いつもあんなことしてるわけじゃないよ!」
「下手な芝居は止せ。毎晩違う男とセックスしてるビッチが」
「違うよタケル…、ミユはタケルだけだよ、お願い信じて…」
へたっと、自分をミユと呼ぶ女は尊から手を離して態とらしく床にしゃがみ込む。
両手で顔を覆って如何にも可哀想アピールをして尊の同情を誘おうとするが、生憎俺達の王様はそんな猿芝居に騙されるような愚かな奴じゃないんだよ。
不意に、尊は自分のスマートフォンを取り出し何やら操作し始めた。
(あーあ、御愁傷様…)
「ミユ、本当にタケルのことが好きなのに…」
「じゃあ俺のどこが好きか言ってみろよ」
尊はスマートフォンを操作しながら一切女に視線を合わせることなく冷たく吐き捨てた。
「それは…、格好良くて綺麗で、モデルみたいで、ミユと並んで歩いてても釣り合ってて…」
「それから?」
「そ、れから…」
「結局、テメーが欲しいのはこの顔だろう?」
「ち、違うってば!ミユは本当にタケルのこと…っ」
「もう喋るな。テメーの声聞いてるだけで気分が悪い」
「っ、ど、どうしてよタケル!ミユの何が不満なの!?ミユはその辺の女達とは違うんだよ!ミユのパパは大企業の社長でママは有名な大女優!ミユだってもう少しでモデルとしてデビューするんだよ!美貌・財力・知性、全てにおいて完璧なミユじゃないとタケルには不釣り合いでしょう!」
「自意識過剰もそのくらいにしとけ」
「、」
「全てにおいて完璧?何寝惚けたこと言ってんだブス。テメーの醜い中身がそのまま顔に出てんだよ。財力がどうの言ってたがそもそもテメーが稼いだ金じゃねぇのにデカい面下げてんじゃねぇよ。それでよく知性が語れたな」
その言葉に女はカッと頭に血が上り勢い良く立ち上がると、尊の胸倉を掴んで罵声を撒き散らした。
「っ、い、いい加減にしなさいよ!調子乗ってんじゃないわよ!ちょっと顔が良いからって言いたい放題…っ、アンタなんてどうせ顔だけの人間じゃない!どうせその顔を活かした仕事してんだろうけど、ミユがパパとママに言い付けたらアンタなんてこの業界にいられないんだからね!それでもいいわけ!?」
「好きにしろ」
「ハッ、そうやっていつまでも格好付けてんじゃないわよ!今に見てなさいよ!ミユを抱かなかったこと後悔す…「煩ぇんだよブス」
突如、女の罵声を遮ったのは未空だった。
普段滅多にキレることのない未空だが、とうとう我慢の限界が来たらしい。
寧ろよく今まで我慢出来たな、偉い偉い。