歪んだ月が愛しくて2



「誰がブスですって!?アンタ誰に向かってそんなこと…、」

「いい加減黙れよ。いくらアンタが吠えたところでみーこがアンタみたいなブスを相手にするわけねぇんだから。てか、よくその顔でみーこに迫れたな。どんだけ自意識過剰なわけ?アンタ自分の顔鏡で見たことある?」

「家に鏡がねぇんじゃねぇの?それかどこぞのファンタジーに出て来る魔法の鏡だったりしてな」

「何それ?」

「“鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのは誰?”“それは貴女様ですよ”…って言ってくれるインチキ野郎のことですよ」

「……よく分かんないけど、ブスはブスってことだよね。結局鏡に映るのは自分の顔なんだし」

「まあ、女性の美しさは容姿だけで決まるわけではありませんが、話を聞いている限り彼女が醜いのは間違いないようですね。良かったですね、勘違い女を抱いて差し上げなくて」

「コイツじゃ勃つもんも勃たねぇよ」

「う、自惚れてんじゃないわよ!ミユが抱いて欲しいんじゃなくて、ミユが抱かせてあげるって言ってんのよ!それなのにコイツが…っ」

「だから自惚れてんのはアンタだって言ってんだよ」

「、」

「アンタさ、みーこが誰か分かってそんな言葉発してんの?みーこのこと業界から追い出すとか偉そうなこと言ってたけど、アンタが胸糞悪いこと言う度にアンタの父親の会社も母親のあることないこともネット上にばら撒かれてるって分かってる?」





「………は、」





「ネットニュースに載ってんじゃない」

「今頃アンタんちは大変なことになってるだろうな」



女は慌てた様子でスマートフォンを開いた。

次の瞬間、女の顔が見る見るうちに青褪めていく。



「……嘘、な、何で……ママのスキャンダルがネットに…」

「それだけではありませんよ。井桁商事の株価が大暴落しているようですね。ああ、貴女は井桁さんのところのお嬢さんでしたか。通りで下品で教養がないわけですね」

「や、嫌だ、何で……どうして、こんな…っ」

「親切な一般人から情報提供があったんだろう。井桁商事が裏社会と通じて詐欺紛いなことに手を染めてるってな」

「………まさか、」

「特捜部が動くのも時間の問題だ。今頃テメーんちに家宅捜索でも入ってんじゃねぇか」

「ア、アンタが…っ!?何でこんなこと…、ど、どうしてよ!?ミユが何したって言うの!?アンタ一体何者なのよっ!?」



女は尊に掴み掛かろうとしたが、尊は触れられる寸前に女の手を払い除けるとバランスを崩した女が床に倒れ込んだ。



「何逆ギレしてんのコイツ?全然理解出来てねぇじゃん」

「お頭が弱いから分かんねぇんだろうよ、自分が何をやっちまったのか」

「ご存知ですか?僕達の王様には大層可愛がっているお気に入りがおりましてね、その彼を傷付ける人間は誰であろうと容赦しないんですよ。例えそれが貴女のような無力なバカ女であってもね」

「、」



さっきまでの強気な態度は一変し、漸く自分が置かれている状況を理解した女は床に座ったまま震える身体を両腕で抱き締めた。



今更後悔したところでもう遅い。



尊は決して心が広くて甘い人間ではない。
ましてやりっちゃんが言うようなお人好しでもない。
大抵のことには興味を示さないが、一つのことに目を付けるととことん執着するタイプの人間だ。
言い換えれば、とんでもなく根に持つタイプだと言うことだ。



そんな人間が自分のお気に入りを貶されて黙っているわけがない。



可哀想に……いや、もうそんな感情すら湧いて来ない。



自業自得だ。



りっちゃんを攻撃した時点でこの女の末路は決まっていた。

まあ、うちの王様はヤの付く職業じゃないんで風呂に沈められるってことはねぇけど、どの道これから先の人生まともな生活は送れないだろうな。





「テメーがアイツを語るなんざ100億年早ぇんだよ」





御愁傷様。


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