歪んだ月が愛しくて2
立夏Side
『ふふっ、まあアンタが男ならどうせ相手にされることはないでしょうけど一応忠告してあげる。いい?アンタとタケルじゃ住む世界が違うの。アンタみたいな隠キャが本気でタケルに相手にされるわけないでしょう』
分かってるよ。
そんな分かりきったことを今更言われなくても、ちゃんと分かっている。
『アンタがタケルに近付くなんて100年早いのよ』
「住む世界が違う、か…」
彼等の傍にいると、時々その存在を遠くに感じることがある。
出会った当初とはまた違う感覚だけど、本来なら手の届かない存在なんだって改めて思い知らされる。
彼女の口調や態度は好きになれないが、言っていることは至極当然だった。
反論なんて出来るわけがない。
だから彼女と言う現実から目を逸らすためにここまで逃げて来たのだ。
(情けない…)
「立夏くん、何か言った…?」
「いんや、何も」
チラッと視線を後方に向ければ、後ろから汐と遊馬がついて来ていた。
「それにしてもクソみてぇな女だったな。あんなのに手出すとかどんだけ女の趣味悪ぃんだよ、神代会長は」
「突っ込める穴があれば誰でもいいんじゃないか?」
「うげぇ、最悪…」
2人がそう思うのも仕方ないのかもしれない。
でも俺の感想はそうじゃなかった。
「……そうかな」
丁度目的の場所に到着したので足を止めると、何故か2人は驚いた様子で俺の顔を覗き込んで来た。
「ん?」
「え、いや…、その…」
「……立夏くんは、あの女に好き放題言われてムカつかないの?」
「ムカつかないよ」
「な、何で…?あの女、立夏くんのこと知りもしないくせに勝手なこと言ってたんだよ?」
「俺のこと知らないんだから勝手なこと言うのは仕方ないんじゃない」
「いや、それでもあんなこと普通は言わないよ。初対面の相手なら尚更ね。あの女は故意に立夏くんを傷付ける言葉を選んだんだよ。それなのに立夏くんは何とも思わないの?」
「何とも思わないとは言ってないよ。でもムカつくとか怒りの感情は湧いて来ないかな」
「それは、どうして…」
「だってあの人が言ったことって本当のことだし。本当のこと言われて怒る人はいないだろう?」
「っ、違うよ!全然違う!」
「……俺もそう思うよ。あの女は自分が神代会長に相手にされないからってその鬱憤を立夏くんで晴らそうとしただけだよ。それを真に受ける必要はないと思うけど」
「そうだよ!あんな女の言葉なんて信じないで!」
グッと、俺の肩を掴む汐の手に力が入る。
その力がまるで汐の感情を表しているようで思わず言葉を噤んだ。
あの遊馬も何故か険しい表情を見せるものだから、俺の発言のせいで2人にそんな顔をさせてしまったことに今更だけど後悔した。
言わなきゃ良かったな…。
それとも言葉選びを間違えたのか?
「……うん。ありがとう、俺のためにそんな風に言ってくれて」
「何度だって言うよ。立夏くんは俺の…、俺達“B2”にとって大切な人なんだから…」
「あんな女に立夏くんを語らせないよ」
2人の剣呑とした雰囲気を変えるために選んだ言葉だったが、どうやら正解みたいだ。
例え2人の気持ちを受け入れることが出来なくても、いつもの2人に戻ってもらうためなら俺はいくらでも嘘を吐くことが出来る。愛想笑いなんてお手のものだ。
「ははっ、2人共おおげ…「大袈裟じゃないぞ」
途端、聞き慣れた声が俺の言葉を遮った。
振り返ると、そこには未空以外のC組メンバーが揃っていた。
でも、どう言うわけか…。