歪んだ月が愛しくて2



「え、何で、皆怒ってんの…?」



そう言うと彼等の表情が更に険しさを増した。



「当たり前だろう!友達のこと悪く言われて何とも思わないわけねぇじゃん!」

「君さ、何であんなこと言われて言い返さないわけ?見てるこっちがムカつくんだけど」

「立夏くん、あの人の言ったことは気にしちゃダメだよ」



彼等は怒っていた。

彼女を責めることが出来ない俺の代わりに。

彼女の言葉を鵜呑みにした俺に対して。



「み、んな、どうして…」

「友達ってのはな、自分の悪口言われるよりも友達のこと悪く言われる方がムカつくんだよ」



ああ、そうか。

だから彼等はこんな俺のために…。



最初は汐と遊馬を宥めるための言葉だった。

本心でなくても2人の怒りが鎮まるのであればそれで良かった。



(でも、そっか、友達だからか…)



俺だけじゃなくて、皆も俺を友達だと思ってくれていることがこんなにも嬉しいなんて知らなかったな。



決して彼女の言葉を否定するつもりはない。

誰に何と言われようとも、俺の存在が彼等にとってマイナスであることは変わらない。



だけど、それでも、皆の言葉で気持ちが軽くなったのは事実だから。



「ありがとう」



ポカンと呆ける彼等に、もう一度微笑む。

すると彼等の動きがピタリと止まった。



「っ、」

「びっ、くりした…」

「……本当、何でこの流れで笑うかな。意味分かんない」

「っ、……り、りっかくん、そんな風に笑っちゃダメだよ…」

「え、何で?俺何かした?」

「相変わらず無自覚だな、お前は」

「今ここで無自覚とか関係ある?」

「あると思うよ。立夏くんの笑顔一つで鼻血出すバカがいるくらいだからね」

「え……、うわあぁああ!!汐また鼻血がっ、大丈夫!?」

「り、立夏くん、可愛過ぎてマジヤバ…っ(テメー遊馬!立夏くんに余計なこと言ってんじゃねぇよ!)」

「心の声と建前が逆だぞ」

「ベタじゃん」

「汐、お前はまた…」

「まあ、汐くんらしいけどね」

「それフォローになってないけど」

「え、そうかな?」





いつも通り騒がしい彼等を見据えて、軽く瞼を伏せた。





―――いつか。



いつか、俺の正体に皆が気付いてしまったら…。





きっと、そう遠くない未来に現実となる。



そんな気がしてならない。



正直、怖いよ。



そんな最悪な未来、出来ることなら一生来ないで欲しいと願うくらい怖い。



でも俺の勘は嫌なことに限ってほぼ当たるから、きっとこの運命とやらは避けられない。



だったら傷が浅い内にとっとと皆の前から消えればいいのだろうけど、彼等を大切だと認めた時点でそれはもう手遅れだった。





「頼稀」

「ん?」

「……さっきはごめん。八つ当たりした」





だから、





「っ、……お前が謝ることはない。悪いのは俺だ。……ごめん、な」

「じゃあお相子ってことで」





どうかその日まで、皆の傍にいさせて欲しいと。



そう願ってしまう俺は、世界一我儘で、最低な人間だ。


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