歪んだ月が愛しくて2
「シロのせいじゃない」
「え、」
ナツの声が俺の思考を遮る。
「その顔…、自分のせいでアイツが怪我したとか、俺達に迷惑を掛けたとか、そんなくだらないこと考えてるよね。でも違うから。確かにアイツは怪我したけど、それはアイツがバカみたいに真っ正面から突っ込んだ結果、つまり自業自得だし、俺もアイツも迷惑なんて思ってない。寧ろ好きでやったことだから自発的に」
「……すご。よく俺が考えてること分かったな」
「当たり前じゃん。俺シロのペットだよ。ペットってのはね、飼い主のことをよく見て学ぶもんなんだよ。知らなかった?」
「へぇ…、てっきりナツはアイツの背中を見て育ったのかと思ってたけど」
「アイツから学ぶことなんて何もないよ」
素直じゃないな。
ブスッと不貞腐れた顔を上げて、今度は俺の首筋に顔を埋めて来る。
まるで幼い子供をあやすかのように背中を撫でてやれば、ナツはそのままの体勢から不満げな声を上げる。
「……ねぇ、ここまで言ってんのにまだ俺の言葉が信用出来ないわけ?俺達の手綱を握ってんのはシロなんだよ。シロだけしか扱えないの。そんな俺が唯一のご主人様に嘘吐くと思ってんの?」
「そうは思ってないよ。だたお前達が迷惑に思ってなくても俺の都合でお前達が動かざるを得なかったなら、それはその状況を作った俺に責任の一端があるだろうって話」
「責任?それならシロに手を出した恐極が責任を取るべきでしょう」
堂々と言い放つナツを見て、内心ほくそ笑む。
ヤエから学ぶことはないって言ってたけど、そう言うところを学んじゃったんだろうな、きっと。
「それに今回アイツが無茶したのはシロのことがあったからだけじゃない。恐極は白桜会の傘下であることを利用して白羊で薬をばら撒いて、それを自分達の資金源にしてたんだよ。白桜会にとって薬の売買が人殺しよりも重いタブーなのは周知の事実であるにも関わらずね。それで上がブチギレてアイツが駆り出されたってわけ」
「恐極組はそんなことまでしてたのか…」
「ね、だからシロが気にすることじゃないって言ったでしょう。自業自得なんだよ。結局は身から出た錆なんだから」
「……アイツ、平気?」
「腰振る元気はあるみたいだから平気だよ。心配するだけ無駄」
「ならいいけど…」
ヤエが女に跨るのはいつものことだからイマイチ安心出来ないが、今はナツの言葉を信じるしかない。
本人に確かめたくても今頃ヤエは事務所でしごと………いや、よく考えたらナツがヤエの目を盗んで1人で俺に接触出来るはずがない。
店長から電話をもらって駆け付けたにせよナツに直電ってわけじゃないだろうし、恐らく事務所を通してのはず。
それにあのヤエがナツの動きを把握してないはずがない。
「まさか、アイツ…」
「あ、あのー…」
そんな疑問を遮ったのは店長の申し訳なさそうな声だった。