歪んだ月が愛しくて2
「店長、驚かせてすいません。……あの、立てますか?」
ナツに抱き付かれているため椅子に座ったまま店長に話し掛けた。
店長は突然俺に話し掛けられたことに驚いたのか「は、はひぃっ!」と上擦った声を上げて立ち上がろうとするが、まるで生まれたばかりの小鹿のようにプルプルと足を震わせるものだから何だか申し訳ない気分になかった。
「おい鳥頭、喋らないんじゃなかったのか?」
「っ、」
「ナツ、イジメ過ぎ。そのくらいで勘弁してあげな」
「はぁ…、本当シロは誰にでも優しいよね。そう言うのはペットにだけでいいと思うけど」
「俺が他人に優しく出来るのは、こんな俺のために怒ってくれる可愛い可愛い獣ちゃんがいるからなんだけど」
「………可愛くない」
「はいはい」
ナツの首を指の背で軽く撫でてやれば忽ち大人しくなる、俺の獣。
日頃の鬱憤を店長で晴らししたいのは分かるが、今はそんな悠長に過ごしてられるほど時間がない。
ドアの外が気になる。
ドンドンと、時折ドアを叩く音が聞こえる。
適当に時間を潰しててとは言ったが、大人しく言うことを聞いてくれる連中じゃないし、頼稀1人に任せるのも限界がある。
早いところ用件を済ませてしまおう。
「ナツ、あの金は俺のじゃないよな?」
「出所は八重樫だよ。アイツがそう指示したから用意した」
「何で?」
「壊したものを弁償するだけならシロの預金で足りるよ。でも今回は弁償費+口止め料も入ってるから八重樫の方で負担したの」
「……それだけ?相手が白羊の人間ならちょっと脅せば済むことだろう」
「さっきみたいにね。まあ、いつもだったらそうしてたけど、今回はそれだけじゃないから」
「ナツ、悪いけど今は長話してる時間がない。要点だけ言って」
「外の連中が気になるの?あれでしょう、今のシロのオトモダチって?」
「ナツ」
「……やっぱ金で解決して正解だった」
「え?」
「悪いけど、今この時間はシロのこと金で買ってるから。だから余所見するのは許さないよ」
「………そう言うことね」
1000万なんて膨大な額を用意したのは、店長への餌と、俺の時間を金で買うため。
つまり俺を拘束するための手段だったわけか。
こんなことを考えるのはアイツしかいない。
どうやら俺の予想は当たっていたらしい。