歪んだ月が愛しくて2
「アイツは今どこにいんの?」
恐らくアイツが直接ここにやって来ることはない。
俺の時間を金で買ったと言うことは偶然を装って接触するのではなく、会長達の知らないところで接触することを望んでいるはず。
……いや、それを望んでいるのは俺の方か。
きっとアイツなりに色々と考えてくれたんだろうな。
俺としてもその方が有難いけど何せ時間がない。
ドアの外にいる彼等が万が一にも突入して来たら一巻の終わりだ。
「……そうやってすぐアイツのこと気にする」
不機嫌そうな声が、ボソッと俺の下から聞こえて来た。
「……ナツ?」
「俺より、アイツの方がいいの…?」
今にも消え入りそうなか細い声がそんなことを口走った。
意図的に俺と目を合わせないようにしてるくせに、俺の胴体に巻き付く両腕は逃がさんと言わんばかりに力が込められている。
不機嫌な声は一変し、寂しさを滲ませていた。
「俺、いらない…?」
泣きそうな声だった。
甘えたとはちょっと違う。
これは、ナツの限界だ。
Tシャツの鳩尾部分がじんわりと湿っぽい。
ああ、俺と目を合わせないようにしてるのはそう言うことか。
ナツの発作も相変わらずだな。
「ナツ、俺がいつそんなこと言った?」
「、」
「どっちかなんて決められるわけないだろう。俺にとってはナツもヤエも…、同じくらい大切なんだよ」
「……うん」
小さな子供をあやすように背中を撫でて落ち着かせる。
複雑な境遇で育ったナツは時々このような発作を起こす。
こうなった時のナツは兎に角言葉と態度で安心させてやるしかない。
「いらないわけない。いらなかったら最初から拾ったりしないよ」
「………」
「俺はナツだから拾ったの。ナツだから、俺の名前から一文字あげたの。ナツだから大切なんだよ」
「っ、……うん」
そんな言葉を繰り返し言い聞かせて、ナツの涙が止まるまで強く抱き締めた。
これがすぐ収まる時もあれば何時間もこのままの時もある。
でもこればっかりは仕方ない。
本人だって好きで泣いてるわけじゃないし、不安とか、寂しさとか、そんな負の感情がピークに達した時に爆発してしまうのだ。
しかも今回の発作は多分の俺のせいだし、飼い主兼名付け親として最後まで責任を取るつもりだ。
こうなったら外で待機してる会長達とヤエは後回しだな。