歪んだ月が愛しくて2
「―――テメー…、前より弱くなったんじゃねぇか?」
土煙が舞う中、一旦攻撃の手を止めたヤエが気怠げな目で俺を見つめてそう言った。
「期待に添えなくて悪かったな。こっちはお前と違って健全な高校生活送ってっから身体が鈍ってんだよ」
「健全だぁ?どこの世界にヤクザの用心棒のバイトする高校生がいんだよ?しかもあん時のテメーはまだ中坊だったろうが」
「あれが俺の全盛期だからな」
「ほざけ。テメーが手抜いてんのなんざバレバレだぜ。ちょっとは真面目にやれや。でねぇと…」
「、」
フェイントの石ころを躱した直後、ヤエの拳が俺の頬を掠めた。
「治んねぇだろうがぁ!」
「チッ」
ピッと、頬が切れる。
間一髪のところでヤエの攻撃を躱せたが、頬を掠めていった風の強さで破壊力の凄まじさが分かる。
やはり“白羊の異端児”と言われるだけあってその辺のチンピラとは別格だな。
(確かに、これじゃ俺に回って来るわけだ…)
すぐに次の攻撃が飛んで来た。
ヤエの拳を避けると、今度は蹴りが飛んで来て、何とか躱せたが革靴の踵部分が俺のマスクを掠ったため眼鏡諸共どこかに飛んで行ってしまった。
「それで変装してるつもりかぁ?そのダセェ眼鏡と髪色変えたくれぇじゃバカ犬共は騙されても俺の目は誤魔化せねぇぞ」
「バカ犬の自覚がないのか?可哀想に」
「ハハッ、だったらもっと遊んでくれよ!!この可哀想なワンワンとなぁっ!!」
パリンと、眼鏡が壊れる音がする。
ヤエは軽口を叩きながらも攻撃の手を止めない。
遊んでくれって…、お前と遊んで無事で済む保証がねぇから嫌なんだよ。
俺とヤエがマジでやり合ったら確実にお互い無傷では済まない。
そんなことになったら折角ナツが気を利かせて時間稼ぎしてくれてるってのに皆のところに戻れないし、戻らなかったら戻らなかったで不審に思われて俺とナツの関係を匂わせる羽目になってしまう。
だからここは何としても出来るだけ軽症で済ませて、このバカ犬を満足させなければならない。
正面からやり合うのは得策じゃない。
どうしたものか…。
「余所見とは随分余裕じゃねぇかぁあああ!!」
「……うっさ」
勢い良く薙ぎ払われたヤエの右腕を寸前のところで躱す。
肉食獣を思わせる動きは素早くて予想が出来ない。
躱しても躱しても攻撃の手を止めないヤエの一瞬の隙を見て、ヤエの懐に飛び込み下腹部目掛けて肘打ちを叩き込んだ。
手応えはあったが、ヤエの動きが止まったのはほんの一瞬だけだった。
「……ってぇなぁ。キンタマ潰れたらどうしてくれんだぁ?」
そう言い放った直後、ヤエが右の拳を振り上げた。
咄嗟に腕を交差させて防いだが、その威力は凄まじく、俺の身体は呆気なく後方に吹っ飛ばされた。
すぐさま起き上がって体勢を立て直したが、続け様に拳が飛んで来たので後ろに飛び退いて躱そうとするも躱しきれなかった大きな手が俺の首を鷲掴み、そのまま地面に打ち落とされた。
背中を思いっきり打ち付けたせいで一瞬呼吸が出来ず、かはっと情けない声が口から漏れた。
本当容赦ねぇな、コイツ。