歪んだ月が愛しくて2



シン…と、静まり返る室内が息苦しい。
でもそれを作り出したのは間違いなく俺だった。

あんな風に声を荒げるつもりはなかった。
今更だけどバカなことをしたと後悔している。
でも堪えられなかった。「自分のせいじゃない」と残酷な優しさを植え付けられることが苦しくて堪らなかった。
責められることに慣れてしまった俺にはアゲハの優しさは毒でしかない。



優しくて、甘い毒。

蝶なんて生易しいものじゃない。



「―――黙らないよ」



するとアゲハは何を思ったのか突然俺の腕を掴んで会議室を飛び出した。



「お、おい…っ!?」



俺が制止の声を上げてもアゲハの足は止まらない。
後ろの方でみっちゃんの声も聞こえたがアゲハは一切反応することなく足を速めた。
連れて来られたのは東棟の屋上だった。
屋上に誰もいないことを確認してアゲハの腕を強引に振り払い文句を言おうとした時、振り払ったはずの両手をフェンスに押し付けられた。



「、」

「あんなところで声を上げるなんて感心しないな。あれでは君の嫌いな悪目立ちになってしまうよ」

「……そうさせたのはお前だろうが」

「何をそんなにピリピリしているんだい?」

「お前が黙ればそのうち直る」

「ふむ、その眉間の皺は僕のせいだったのか」



お前以外に誰がいんだよ。



「でもどんなに足掻こうとも、いくら目を背けようとも過去を消すことは出来ないよ」



咄嗟に反論の言葉を飲み込んだ。



アゲハは俺の過去を知る数少ない人物。
そのせいかアゲハの言葉は一つ一つが重く胸に突き刺さる。



「僕も、君もね」



否定出来るわけがない。

だって全部本当のことなんだから。



「君だって本当は分かっているはずだ」



ああ、まただ。

あの日の光景がアイツの顔が脳裏に過る。



『…ごめん、シロ……』



俺がやったこと。

俺のせいで犠牲にしてしまったもの。



足掻くつもりはない。

自分の罪から目を背ける気なんて毛頭ない。



「……そんなの、自分が一番分かってる」



あの日、病室のベッドで眠る公平を見て誓ったんだ。

過去を背負って生きていくと。



だから逃げない。

逃げちゃいけない。

これだけは何が何でも。



「そう、君は決して過去から逃げられない」



誰に何と言われても俺の意志は変わらない。
どうせ死ねないのならこの罪と罰を背負って生きていく。
それがアイツに対する俺に出来る唯一の償いだと信じて。



「でも逃げる必要はない。君には僕等がいるからね」



ペタッと、アゲハは俺の頬に触れる。

その音に、その冷たさに、急激に現実へと引き戻された。



「君の依代は何も覇王だけじゃない。僕や頼稀、邦光達だっていつも君の傍にいる。だから逃げる必要はないんだよ。自分のことが許せないならせめて僕にも一緒に背負わせて欲しい」



真摯で真っ直ぐな言葉。

胸の最奥にすとんと何かが落ちて来た。



「ア、ゲハ…」



目頭が熱くなる。



何で…、


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