歪んだ月が愛しくて2
ゆっくりとアゲハの身体が俺から離れて行く。
アゲハは俺の手を取ると両手首に優しく触れた。
「手荒なことをしてすまなかった。でも僕は…」
ああ、何で…、
「……謝んな」
何でアゲハはこんなにも真っ直ぐなんだろう。
「……俺も、悪かったよ。ムキになって」
どうしてこんな俺を真っ直ぐに見てくれるんだろう。
「八つ当たり、してた」
「………」
アゲハの胸を軽く押して少し距離を取って背を向ける。
「お前が、俺に構うから…」
飲み込んだはずの言葉が徐々に溢れ出す。
「アゲハが俺に構う度、苦しいんだ」
アゲハはバカだ。稀に見る大バカ野郎だ。
かつての敵である俺をやたらと気遣ったり、無闇に受け入れたり、“望みを叶えたい”なんてバカなこと言ったり、しかも安易にそれを叶えちゃったりもう本当にバカとしか言いようがない。
……でも嫌いじゃない。
嫌いになんてなれるわけがなかった。
だって俺はそんなアゲハに救われていたから。
「もう俺に構うなよ。俺に優しくすんなよ」
だから忠告のつもりだった。
アゲハの言葉を否定したのも、その優しさを拒絶したのも。
これ以上俺のせいでアゲハや頼稀に迷惑掛けるわけにはいかない。
「俺のためとか言って自分を犠牲にしないでくれよっ」
都合が良いのは分かってる。
今更後悔しても何もかも手遅れだと言うことも十分に。
「俺は、最低なんだから…」
でもだからこそその重荷を取り除いてやりたい。
もう十分過ぎるくらい俺は救われた。
だから―――。
「……君を、困らせるつもりはなかったんだ」
「困ってなんか…っ」
「以前“君の大切なものを守る”と言ったことも君にとっては重荷だったかもし…「だから困ってねぇよ!」
咄嗟に声を荒げてアゲハの言葉を強く否定する。
するとアゲハは驚いたように目を丸くさせてパチパチと瞬きを繰り返す。
困るって何?
困るとしたらそれは彼等の方だ。俺じゃない。
「何でお前はいつもそうやって…っ」
「……駒鳥、聞いて欲しいんだ」
アゲハは次第にいつもの冷静さを取り戻すと俺と視線を合わせて静かに話し始めた。