歪んだ月が愛しくて2
「……あ、あの、つかぬこと伺いますが、ナツの奴から何か聞いてますか?」
「何かって?」
「いやぁ、その…、例えばですね、例えばその…「ヤエが1人で恐極組を壊滅させたのは元々知ってましたよ」
「え゛っ!?」
「そんな驚く?アイツが動けば俺の耳に入るのは必然でしょう」
「そ、それは、そうなんですが…」
「あー…もしかしてその件で俺が怒ってると思ってます?」
「……はい」
「ないない。……まあ、それについて思うことがないと言えば嘘になりますけど、怒ってないのは本当です。寧ろ怒れる立場じゃないでしょう俺」
「しかし…、白夜叉殿は恐極のことを若に伝えてませんよね?つまりそれはご自分だけで解決するつもりだったからじゃないんですか?」
「当然です、あれは俺と月の問題ですから。組は勿論、ヤエ達を巻き込むつもりはありませんでしたよ。まあ、何となくこうなるって予感がしてたんで言いたくなかったってのが本音ですけどね」
「流石です」
「いや、それ何について褒められてるのか分かんないんだけど…」
ふと、空を仰いだ。
悠然と夜空に佇む月が、目の前いっぱいに広がった。
(あの感覚は…)
さっき月を見上げた時に感じたのは、脳の芯から蕩けさせるような異様な高揚感だった。
悍ましいほど甘い、思考を麻痺させるような誘惑。
まるで血に飢えた吸血鬼にでもなった気分だ。
急激に込み上げて来たソレに抗うことが出来ず、枷を破って暴れ出した結果はご覧の通り。
ヤエには悪いことしたと思う反面、こうでもしないとヤエを止められないから仕方ないとも思っていた。
あの感覚を、俺は知っている。
それも一度や二度じゃない。
最近で言えば双児で“鬼”とやり合った時もこの感覚に飲まれそうになったが、頼稀のお陰で最小限の被害に収まった。
でもあの時は…、公平の時は最小限と言うわけにはいかなかった。
ストッパーがいないと自分で制御することすら出来ない力なんてあってないようなものだった。
ましてそのストッパーを傷付けられて黙っていられるはずがなかった。
力の副作用なんてよく言ったものだ。
結局は手に余る力を制御出来ないだけのくせに…。
何が族潰しだ。
何が白夜叉だ。
「……反吐が出る」
こんな自分が嫌で嫌で堪らなくて、どうしようもなく軽蔑してるのに、結局はこの力に頼らないと大切なものすら守れない自分が情けなくて本当嫌になる。
『お前は怖いのか?』
かつての会長の言葉が、頭の中で反響する。
……ああ、怖いよ。
いつかこの力が大切な人達までもを傷付けてしまいそうで。
怖くて、怖くて、堪らないんだ。