歪んだ月が愛しくて2



火照った身体に夜風が心地良い。
久々に本気のヤエとやり合ったせいか、懐かしさに酔いしれているのか。



ヤエの頬に手を伸ばしてするりと撫でるように這わせれば、ヤエは猫のように目を細めた。



乱れた水浅葱色の髪が、夜風に揺れる。



「……お前、相変わらず幼児体温だな」



ヤエのゴツゴツした手が、俺と同じように頬に移動してするりと滑っていく。



「そう言うお前は、冷たくて気持ち良いよ」

「っ、……煽んなクソ」



夜風が水浅葱色の髪を弄び、端正な顔が露わになる。

自分が付けたものとは言え、痛々しい傷跡に眉を顰める。



「んな顔してんじゃねぇよ。お前は何も間違ってねぇんだ。お前がいなきゃ、俺は…」

「……うん。分かってる」

「分かってんならそんな面見せんな。噛み殺したくなる」



俺のキャップを奪うヤエが、コツンと額同士を合わせる。



「返り討ちにするけど、やってみるか?」

「ハッ、調子出て来たじゃねぇか」



キスでもしそうな距離の近さに、ヤエはクツリと喉を鳴らして頬にある手を後頭部へと滑らせた。



「再開を祝してキスの一つでもプレゼントしてやろうか?」

「いらねぇよ。そんなもんよりもっと強烈なもん貰ったからな」



左の手の甲を見せた後、Tシャツの首元を下げてそこにくっきりと付いた指痕を見せつけると、ヤエは「ハハッ、違ぇねぇ」と上機嫌に笑った。



「中々似合ってんじゃねぇか」

「……悪趣味め」

「悪趣味なのはどっちだよ。そんなもんまで貰って来やがって…」

「そんなもん?」

「派手に付いてんぜ。しかもその上から噛み痕まで、くっきりとな」

「っ!?」



しまった!

首には未空と会長に付けられた痕が…っ。



咄嗟に指摘された箇所を手で隠すと、上から舌打ちが降って来た。



「あの野郎、適当な仕事しやがったな…」



そんな呟きと同時にヤエが覆い被さって来た。



「いっ、」



ミチミチッ、と嫌な音と激痛が走る。



「っ、てぇえええ!!!何すんだテメー、肉食い千切る気かぁ!?」



脇腹に一発入れた後、思いっきり鳩尾を蹴ってヤエを突き飛ばした。
痛みのせいで手加減するのを忘れてしまい、軽く1メートルほど後方に吹っ飛ばしてしまったが悪いのは断然ヤエだ。俺じゃない。松田さんの「若ご無事ですか!?」の声も無視だ。
甘噛みならまだしも血が滲むどころか血が滴り落ちるほどがっつり噛み付かれたのに、手加減もクソもあったものじゃない。寧ろお前が手加減しろや。
痺れるような激痛に指先まで痙攣して来た。



「そんなおままごとみてぇなマーキングより、こっちの首輪の方がテメーにはお似合いだぜ」

「あ?」



会長達に付けられた痕を指でグリグリと押しながら、ヤエは意味の分からない言葉を吐き捨てる。
吹っ飛ばしたのに復活すんの早いな……じゃなくて、まず先に謝れよ。



胸の方まで血が滴り落ちるのが分かる。
幸い黒の服を着ているので周囲に悟られることはないだろうが、首筋を噛まれたので中々血が止まらない。
しかもヤエの口元からは血が垂れてるし、リアルホラーじゃねぇか。
何で今日に限ってこんな血流さなきゃいけねぇんだよ。


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