歪んだ月が愛しくて2
「ふーん…。じゃあ恐極月の様子だけでも教えてくれない?生きてる?それとも…」
そのくらいはいいか…、と判断した俺は風魔に視線を送る。
風魔は後ろにいる同級生達を気にしながらナツの耳元に顔を近付けた。
「……殺してはない。怪我が回復次第そっちの筋に引き渡すつもりだ」
「引き渡し先が決まってないならこっちで選定しよう。良いところを知っている」
「言って置くが、更生させる気はねぇぞ」
「当然だ。奴の罪は万死に値する……が、死んだらそこまでだ。奴には生きて罪を償ってもらう。死にたくても死ねない地獄を嫌ってほど味わせてやるさ」
周囲に声が漏れないように互いの耳元で話すのは分かるが、流石に隣にいたら丸聞こえだ。
風魔が今の会話をあえて俺に聞かせた意図は分かっている。
そして、恐らくナツは…。
「……その反応、やっぱりアンタも知ってたわけね」
やはり、俺を試していたか。
俺が立夏の正体に気付いているかどうか。
「それがどうした」
「………」
だがそれが俺の答えだ。
立夏が何者であろうと関係ない。
そんな些細なことは気にする価値もない。時間の無駄だ。
立夏が俺の前からいなくなるくらいなら、どんなことでも飲み込んでやる。
俺の答えにナツは「まあ、1人くらいそっち側にいた方がやり易いか…」とまるで自分自身に言い聞かせるかのように呟いた。
「みーこ…」
不意に俺の服を掴む未空が視界に入る。
不安げな視線を上げて俺を見つめる空色。
立夏とナツの関係を知らない未空からしたら今の状況に不安を抱くことは無理もない。
俺も未空と同じ立場だったら店長をぶん殴ってでもあのドアをぶっ壊して立夏の安否を確認するだろうからな。
その上、未空は立夏のことを仲間以上に想っているから不安や心配も一入なはずだ。
『俺、負けないから』
(……強くなったな)
うかうかしているわけでも余裕をかましてるわけでもないと言うのに、どうにも老婆心が先立ってしまう。
あの頃の未空を知っているから余計に…。
だからって立夏のことを諦めるつもりは毛頭ないがな。
「ご納得して頂けましたか?」
「そっちが恐極を欲しがる理由があるように、こっちにも譲れねぇ理由があるんでね」
「そんなことより早くリカを解放してよっ!」
「まあ、そう言うことだ」
恐らくナツがこの場で恐極の話を出したのは、立夏が襲われた件と恐極組が襲われた件が全くの別物であることを誇張するためだろう。
そして何かしらの理由があってここに留まっているに違いない。
そうでなければ九澄の質問に律儀に答えてやるはずがない。
俺の考えが正しければ、恐らくその理由とやらは立夏に関係する何かで、俺等の知らないところで何かをしようとしているんだろう。
そして不自然なくらい事務所の前に張り付いてる店長の様子から察するに、恐らく立夏は今事務所の中にいない。
それを悟られないために九澄の質問に答える姿勢を見せて、俺等を足止めすることで時間を稼ごうとしているんだろう。
問題は今立夏がどこにいるのかと言うことだが、ナツが俺等を足止め出来る時間は長くても30分程度だからそう遠くには行っていないはず。
そうなると白羊から出たとは考え難い。
白羊内で接触する人物となると、家族か、……側近の誰かか。
その時、俺のスマートフォンがメッセージを受信した。
こんな状況下で暢気に内容を確認してる余裕はなかったが、ディスプレイに表示された名前を見て慌ててスマートフォンを操作した。
そこに表示された内容を見て全てを理解した。
同時に立夏が戻って来たら一言二言文句を言ってやろうと心に誓ったのは言うまでもない。
だから、気付かなかった。
こちらに近付いて来る、足音に。
「仕方ない。今日は大人しく引き下がってや…「なーんか面白い話してんね」
それは突然だった。
あまりにも突然で、あまりにも自然に。
「ねぇ、俺も混ぜてよ」
その男は、どこからとなく俺等の目の前に現れた。