歪んだ月が愛しくて2



頼稀Side





突然だった。



それでいてあまりにも自然に。



その声は、その男は、ナツの肩に肘を付いて顔を出した。





「ねぇ、俺も混ぜてよ」





新しいオモチャを手にした子供のように瞳を三日月に歪める男に、俺は見覚えがあった。

いや、見覚えどころの話じゃない。



“忠犬ハチ公”“最弱の側近”などと男を表す形容詞は様々だが、白羊の人間であれば一度は耳にしたことがある、あのフレーズ。





―――“白夜叉の特別”





それがこの男、高屋公平が特別視される理由だった。





「ハ、チ…」





まるでお化けでも見てるような顔で高屋を見つめるナツと、御幸陽嗣を筆頭に酷く驚いた表情を見せる面々。勿論、俺もその面々に含まれている。



何で、この男がここに…。



偶然か?

それともナツに用があるのか?

若しくは…―――。



……いや、落ち着け。冷静になれ。
どちらにせよ、今この場に立夏がいないことだけが唯一の救いだった。
眼鏡とマスクで顔を隠しているとは言え、今の立夏が高屋と接触してボロを出さない保証はないし、例え動揺を悟られなかったとしても心を掻き乱されることは間違いない。



思い出しただけでも、胸が痛い。

あの日の立夏の心情を考えると、どうにもやるせない気持ちになる。



重苦しい緊張感の中、誰もが口を閉ざして相手の出方を待っていた。
しかし、そんな空気を打ち破ったのも紛れもなくこの男だった。



「……あれ?もしかしてこっちの人達とは初めまして?うっそん、やだ〜。俺超恥ずかしい奴じゃん」



「でもナッちゃんの友達だったら俺の友達でもあるよね」なんてふざけたことを抜かす高屋に、俺とナツ以外の人間はどう反応べきか困惑していた。



その反応が普通だな。

俺だって初めて見た時は自分の目を疑ったくらいだ。



一見人当たりが良さそうで、誰よりも無害そうな雰囲気を纏っているが、所詮この男も獣なのだ。
羊の皮を被った獣の如く、その本質は蛇のように狡猾で堕落と愉悦を好む快楽主義者。
それを天性の人誑しでカバーしているだけに過ぎない。



立夏は高屋の何が気に入ったのか…。

正直、俺には理解出来ない。



高屋だけじゃない。
他の4匹の獣も同様に扱い難くて中々の曲者揃いだと言うのに、それを理解した上で一緒にいるなんて本当趣味が悪いとしか言いようがない。



「……友達だと?ふざけるな。そもそもアンタと友達になった覚えはない」

「またまた、そんなこと言っちゃって。最近全然構ってあげられなかったから拗ねちゃったのかな?」

「何?死にたいわけ?」



そう言ってナツは至極迷惑そうな顔をして高屋の肘を払い除けた。
それでいてどこかピリピリとした雰囲気を纏っていた。
反対に高屋の方はそんな雰囲気なんてお構いなしに持ち前のポジティブさを全面に発揮していた。


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