歪んだ月が愛しくて2

D.C.




◆◆◆◆◆





限られた者しか入ることが出来ないある屋敷の書斎。
足を踏み入れた瞬間に感じたのは世界的資産家であると言う空気だった。
部屋の隅には骨董的価値のある花瓶に鮮やかな花が飾られ、壁には有名な作家の絵画や梯子が掛かったはめ込み式の重厚感ある本棚一杯に幾つもの書物が隙間なく並べられていた。
どっしりと置かれた横幅のある書斎机は内側から滲み出るような味のある濃い錆色と化し、この一族に長く愛用されて来た一級品の証だと見る者に思わせる。
この部屋の主人の人間性が垣間見える。勤勉で野心家であり、自身の出生と地位を誇りに思っているのだろう。
そんな主人の前に立つのは黒色のスーツをビシッと着こなした秘書と呼ばれる男だった。





「―――何?恐極と連絡がつかなくなっただと?」





秘書は書斎机を挟んだ向こうにいる主人に軽く頭を下げながら淡々と報告する。





「はい。この1週間、向こうから何の音沙汰もなかったためこちらから責任者の睦月氏に連絡を取ろうとしたところ彼の携帯電話が解約されていることが分かりました」

「恐極の方は?」

「こちらから連絡するのは分が悪いと思いましたので内情を探って参りました。しかし…、つい先日恐極組が八重樫組によって粛清され組そのものが壊滅した後でした」

「何っ!?どう言うことだ!?恐極が何故八重樫組に…」

「どうやら恐極組は八重樫組のシマで薬を卸し、その資金を白桜会に上納せず自分達の懐に入れていたようです。それが上にバレて消されたのかと…」

「チッ、白桜会か…。また厄介なところに目を付けられたものだな。粛清されたと言うことは生き残った者はいないのか?」

「組長と後継者の息子2人、それと側近の数名以外は命を落としました。しかし依然としてその消息は定かではありません。睦月氏も含めて」

「一層のこと恐極が綺麗さっぱりこの世からいなくなってくれてた方がまだ良かったな。そうするればあの計画が外部に漏れる心配もなかったんだが。製薬会社の方はどうだ?」

「変わりありません」

「そうか…。ならそちらは引き続き任せよう。後任は恐極の安否が分かり次第決めるとして、それまでは私の個人資産で出資しよう。私の関与が外部に漏れぬよう匿名でいくらか振り込んでおきなさい」

「畏まりました、―――清寿様」





秘書が書斎を出て行ったの確認した後、清寿は書斎机の一番下の引き出しから厚みのある一冊のファイルを取り出した。
そのファイルの背表紙には「旧鏡製薬会社」と載っていた。





「恐極がダメなら元の鞘に収まるだけだ」


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