歪んだ月が愛しくて2
「幻滅したかい?」
アゲハは困ったように口元を緩めて言った。
先程までの威圧感はどこへ行ったのやらアゲハは力なく視線を下げた。
「……幻滅して欲しいわけ?」
「まさか。ただ自分の汚さを省みる時が来たんだと思ってね…」
汚い?
アゲハが?
ふはっと、何かが込み上げた。
「冗談」
何をどう勘違いしたらそうなるのか知らないが、不安げな表情を浮かべるアゲハは俺が吹き出すと同時に顔を上げた。
キョトンとした顔が少し幼く見えた。
「幻滅するかよ、そんなことで」
胸ポケットから煙草を取り出して口に銜える。
紀田先生から奪った安物のライターを使っているせいか中々火が点かない。
「アゲハは俺に何て言って欲しいわけ?幻滅したって言えば満足すんの?しねぇだろう。だったらもう好きにしろよ」
こんな時まで素直になれない自分が恨めしい。
そんな気恥ずかしさを振り払うように紫煙を吐き出した。
「アゲハが自分のために俺にお節介焼いてくれるならそれでいいよ。世話になってる俺が言うのも図々しいけど俺にも譲れないものはあるから…。だからアゲハのお節介を素直に受け入れられない時もあるけど…」
アゲハに譲れないものがあるように俺にだって譲れないものがある。
胸を張って言えるような代物じゃないが俺の譲れないものはあの頃から何一つ変わらない。
「アゲハは、汚くなんかないよ」
だってそれがアゲハの譲れないものだと思うから。
否定出来るわけない。
「迷惑でもない。迷惑どころか…、そのー…」
「ん?」
「だ、だからっ、嬉しかったんだよ!」
半ばヤケクソ気味に叫ぶと、アゲハは固まったまま動かなくなってしまった。
自分でもらしくないと思うがアゲハが動かないことをいいことに少しは素直になろうと思った。
「自分でも…、本当は面倒見てもらう義理なんてないのは分かってるんだ。恨まれても可笑しくないのに、それなのにアゲハは懲りずに何度も何度も助けてくれた。それが嬉しくないわけ、」
途端、アゲハは俺の腕を引き寄せて力強く抱き締めた。
ギュッと強く、痛いくらいに。
しかも体格差のせいで身動きが取れない。
「バカッ、火点いてんのがみえ…「ありがとう」
その言葉が俺の動きを止めた。
アゲハは力を緩めることなく更に両腕に力を込めて俺の髪に顔を埋めた。
「ありがとう、立夏」
「………」
感謝される覚えはないってのに。
(本当バカ…)
ありがとう。
それは俺の台詞だよ。
目頭が熱くなるのをグッと抑えて、俺は手に持っていた煙草をアスファルトに投げ捨てそっとアゲハの背中に腕を回した。
アゲハの温もりに安心した俺は暫くそのままアゲハの好きなようにさせてやった。