歪んだ月が愛しくて2
「捨て、られるかよ…」
捨てられない。
本当は捨てたくない。
だってこの想いも、彼等のことも、もう俺の一部なんだから。
「僕はね、優しさと残酷さは紙一重だと思うんだ」
「………」
今更なかったことには出来ない。
なかったことになんかさせない。
そのくらい俺にとって彼等の存在は大きくて何よりも大切なものだった。
それなのに俺が…、
「君が捨てられないように彼等もまた君のことを…」
「……冗談」
俺が壊した。
俺が公平をあんな目に遭わせてしまった。
「忘れてくれなきゃ困る」
もうあんな想いはしたくない。
そう思って手放した、はずだった。
でも本当は全然手放せなくて、忘れられなくて。
「そう簡単には忘れられないさ。僕が君を忘れられなかったようにね」
そればかりか俺は自分から太陽に手を伸ばしてしまった。
もう二度と過去を繰り返さないと誓ったはずのに。
「それと僕や“B2”のことは気にしなくていいよ。僕等が君にお節介を焼くのは好きでやっていることだからね。君は自分のことだけに集中したまえ」
(自分のこと、か…)
俺は博愛主義者じゃない。
誰彼構わず手を伸ばすようなスーパーマンじゃないし優しくもない。
いつだって自分のことが一番可愛い最低な奴だ。
初めから自分のことしか考えてない。
だから俺はこの場所にいる。大切な彼等から遠ざかってまで。
「覇王に“B2”のことを聞かれても下手に隠し立てすることはない。何れこうなることは分かっていたからね」
「最初から分かってたなら、何で…」
「これでも僕は九條院家の次期当主だからね。一応世間体を気にしてのことだったんだがもうその必要もなくなった。そもそも疚しいことは何一つしていないからね」
「アゲハらしいな、そう言うところ」
族のくせに疚しいことしてないとは。
そんな堂々と胸張って言えるのはきっとアゲハくらいなものだろう。
「そろそろ行くよ。これから会議だからね」
「あ、時間平気…?」
「君に夢中ですっかり忘れていたよ」
「夢中になるのは九澄先輩だけにしろよ」
「ふふっ、彼を振り向かせるのは中々骨が入るよ」
「振り向けばいいね〜」
適当に相槌を打ってアゲハを見送ろうとした時、アゲハは何か思い出したようにピタッと足を止めて翻した。