歪んだ月が愛しくて2
「そう言えば弟君が転入して来たそうだね」
「、」
ギクッと、身体が硬直する。
油断していた。
まさかアゲハからカナの話を振られると思わなかった。
「何で…」
「頼稀から聞いたよ。少し心配していたんだが…」
「……別に、アゲハが心配するようなことなんてねぇよ」
「君ならそう言うと思ったよ。しかし心配するなと言う方が無理な話さ。君自身未だに引き摺っているようだしね」
「………」
何も言えなかった。
否定することが出来なくて、でも肯定もしたくなくて。
「でも安心したよ」
「安心?」
「相変わらず寝不足のようだが顔色はそこまで悪くない。転入して来た頃よりずっとね」
不意にアゲハの大きな手が俺の髪に触れる。
「何かあったらすぐに僕等を頼って欲しい。僕等ならきっと君の力になれるはずさ」
「だから、アゲハが心配することじゃ、」
「好きにしていいと言ったのは君じゃなかったかな?」
グッと、言葉に詰まった。
「これは僕のエゴだ。誰に何と言われようとも僕はそれを突き通すと決めたよ。君の許しも得たことだしね」
言い返せない。
だって許可を出したのは間違いなく俺だから。
「……図太い奴」
「ありがとう」
「褒めてねぇよ」
それからアゲハは名残惜しそうに手を振って屋上を後にした。
暢気に手なんか振って後で九澄先輩にこってり絞られたらいいんだ。
ふと空を見上げる。
今日は天気がいい。そのため空には雲一つ懸かってない。
本当なら清々しい空に気分も晴れるはずだが、この時の俺の心は何だかソワソワとして落ち着かなかった。
アスファルトに投げ捨てた煙草をぐしゃりと踏み潰す。
(嫌な予感…)
そんな気持ちを払拭するために我孫子から貰った飴玉を口の中に放り込んだ。
「イチゴ、か…」
似合わない。
てか飴を持ってること自体意外だった。
ガリッと、口の中で飴玉を半分にする。
甘い。
でも偶には悪くない。
「……よし」
パシンッと両手で頬を叩いて気合いを入れて、俺は未空を待たせている生徒会室に向かって歩き出した。