歪んだ月が愛しくて2
「ねぇ、我孫子って誰?」
未空の言葉がこの場の空気をほんの少しだけ和らげた。
「は?猿のくせに知らねぇのかよ?」
「知らねぇよ。だから聞いてんじゃん。てか猿のくせにってどう言うことだよ!」
「おやおや、未空は知りませんでしたか」
時折、九澄先輩は何か言いたげな目で会長を見つめる。
「……何が言いたい?」
「貴方らしいですね、そう言うところ」
「チッ」
どうやら九澄先輩には何もかもお見通しらしい。
俺にはさっぱり分からないが。
「で、我孫子って誰なの?みーこも知ってるんでしょう?」
「それで呼ぶんじゃねぇよ」
「……ケチ」
「誰がケチだ」
「ケチケチケチ」
「テメー、いい度胸じゃねぇか」
第2ラウンドが始まる前に俺は慌てて会長と未空の間に割って入る。
「ほら、前にトイレで会ったじゃん。覚えてない?」
「「「トイレ?」」」
予想外の単語に未空以外の3人が声を揃えて俺を見る。
「トイレ?………あっ」
「思い出した?」
「思い出した!我孫子って前にトイレでリカを襲ってた奴でしょう!」
「げっ!?」
一気に言い放った未空。
感情が昂ぶっている未空は気付いていない。
会長がピクッと頬を引き攣らせたことに。陽嗣先輩と九澄先輩の瞳が興味深げに瞬いたことに。
「トイレで?」
「……襲ったんですか?立夏くんのことを?」
あー…よりによって何で今それを言うかな。
「どう言うことだ?」
未空以外の3人の視線が一気に集中する。
「いや、その…」
この後のパターンは大体予想が付く。
てか、もうお約束みたいな?
「聞こえねぇ」
会長は自分専用のアームチェアを降りて俺の元に歩み寄る。
正に地獄へのカウントダウンならぬ会長がキレるまでのカウントダウンだった。
「もう一度、でけぇ声ではっきりと喋れや」
会長は俺が座っているソファーの肘掛部分に腰を下ろすと無遠慮に顔を近付けて睨みを利かす。
やっぱり怒ってんじゃん!