歪んだ月が愛しくて2
「……飲み物、淹れ直して来ます」
「僕も手伝いますよ」
「大丈夫です。九澄先輩は仕事の続きをしてて下さい」
そう言って九澄先輩から逃げるように席を立って給湯室に向かった。
給湯室に逃げ込んだはいいものの何をして時間を潰そう。
とりあえず皆の飲み物を淹れ直すとしてそれから……ま、ゆっくりやりますか。
会長にはコーヒー、未空にはオレンジジュース、陽嗣先輩にはコーラ、九澄先輩には紅茶をそれぞれに準備する。
悲しいことに手馴れた作業はあっという間に終わってしまった。自分で言うのもあれだがパシ…じゃなくて庶務の鑑だと思う。
不意にアゲハの言葉が脳裏に過ぎる。
『それと僕や“B2”のことは気にしなくていいよ。僕等が君にお節介を焼くのは好きでやっていることだからね。君は自分のことだけに集中したまえ』
「勝手なこと言いやがって…」
何度も言うが俺は博愛主義者じゃない。
だから誰彼構わず手を伸ばすことはしないし、手を伸ばす相手は自分で決める。
気にしなくていいなんて無理だ。
自分のことに集中しろだと?
「ハッ、断固拒否」
それから少し時間を潰して皆の元に戻ると、生徒会室では覇王4人が中央のローテーブルに集まって何やら話し込んでいた。
「そうですか。立夏くんがリレーに」
「そう!しかもアンカーなんだよ!」
「スゲーじゃん」
ああ、体育祭の話ね。
「あ、リカお帰り〜」
「ただいま。新しいの淹れて来たよ」
「ありがとうリカ!」
「サンキューりっちゃん」
「気が利くな、珍しく」
「珍しくは余計だよ」
4人の前にそれぞれ淹れ直した飲み物を置いていく。
「ありがとうございます」
「……いえ」
九澄先輩の笑顔にグッと何かを抑える。
その何かにまだ気付きたくなくて誤魔化すように話題を戻した。
「体育祭の話?」
「そう!リカと一緒にリレーに出るって話してたところ!」
「言わなくていいのに」
「だってリカと一緒に出れるのが嬉しいんだもん!」
「はいはい」
「アンカー頑張ってね!」
「やめてー。思い出させないでー」
耳を塞いで現実から目を背ける。
折角考えないようにしていたのに。