歪んだ月が愛しくて2
「くだらねぇ。いつまでもそんなことで騒いでんじゃねぇよ」
「か、会長…っ」
いつもは悪魔のような会長が今日だけは仏様に見え…―――
「そんなのしたい時にすりゃいいだろうが」
「………」
前言撤回!
誰が仏だこの悪魔め!
「あのな、」
いい加減にしろよ、と適当に文句言って再び給湯室に逃げ込もうとした時、突然会長が俺の手を引っ張った。
咄嗟のことにバランスを崩した俺は会長の腕の中にすっぽりと納まってしまった。
「俺は今したい」
「っ、」
会長のエロボイスが鼓膜を犯す。
あまりの威力に一瞬力が抜けて頬に熱が集中する。
するとそれを見ていた未空と陽嗣先輩がすかさず会長の手を押さえ付けた。
「何しちゃってるのかな〜?」
「抜け駆けは禁止だぜ」
「早い者勝ちって言葉を知らねぇのか?」
俺を囲むように睨み合う3人。
その傍らで九澄先輩が「やれやれ」と言って呆れた顔をしていた。
「九澄先輩…」
ヘルプミー。
そんな視線を送ると。
「立夏くん、ファイトです♡」
「うわー、清々しい笑顔ありがとうございまーす」
この人、全く助ける気ないよ。
寧ろこの状況を面白がってるだろう。
「だからリカのチューは俺のだってば!」
「それは勝負に勝ったらの話だろうが!」
「早い者勝ちだ」
どうしよう。
うざい。うざ過ぎる。
うざ過ぎて血管ブチギレそうなんだけど。
誰かこの珍獣共をどうにかしてくれ。
「こうなったら正々堂々と勝負だ!やっぱりリレーで決着付けようぜ!」
「いいぜ!大衆の面前で大恥掻かせてやらぁ!」
「上等だ」
珍獣共の自分勝手な言動と喧しさにワナワナと拳を震わせる。
このまま彼等の好きに喋らせていたら俺の血管は切れてしまうかもしれない。喧しさに我慢出来ずつい手が出てしまうかもしれない。
俺だっていつもはこんなに短気じゃない。寧ろ我慢強い方だと自負している。でも俺を取り囲んだ状態でギャースカ喚かれてたらいくら俺が我慢強くても限界がある。仏の顔も三度までだ。つまり何が言いたいかと言うともうそろそろ来そうなのだ。限界が。
「てことでリカ!」
「勝ったらご褒美ちょーだいね」
「忘れんなよ」
その瞬間、ぶちっと何かが切れた。
「そんなにしたかったらテメー等で勝手にしてろおぉおおお!!」
そう一喝して生徒会室を飛び出した。
俺が我慢強くて命拾いしたな。手を出さなかった自分を褒めてやりたい。