歪んだ月が愛しくて2
「……電話、誰からだったの?」
未空は俺の顔を覗き込んで聞いて来る。
「………」
正直、未空に話すべきか迷っていた。
あの女の名前を出せば、きっと未空はあの頃のことを思い出す。
それを態々思い出させる必要があるかと問われれば、答えは否だ。
だったら未空に話す必要はない。
未空の心を守るためにも、今はまだその時じゃない。
「みーこ?」
そう自分に言い聞かせて、俺は未空に嘘を吐く。
「……昔の知り合いだ」
「未空のため」と大義名分を掲げて。
「知り合い?みーこって俺達以外に友達いたの?」
「友達じゃねぇよ。知り合いって言っただろうが」
「ま、友達が少ねぇのは確かだな」
「貴方も人のこと言えるんですか?」
「俺?俺は友達いるぜ、尊の100倍はな」
「セフレは友達にカウントしねぇぞ」
「知ってるわ!」
「うわっ、今そう言う下ネタ求めてないわ」
「やめて下さいよ、未空や立夏くんの前でそう言う話をするのは。教育上よくありませんから」
「どう言う教育だよ!」
……嫌な予感がする。
あの女が何を考えているのかは分からないが、単に復縁が目的じゃないことくらいは分かる。
目的が分からない以上、対策が取れないのは厄介だが。
『言ったでしょう、後悔するって。近いうちに会いに行くわ。あの子にも挨拶しなくちゃね。それに―――』
それだけは避けたい。
何があっても、どんなことがあっても。
『―――貴方のお気に入りにも会ってみたいしね』
(させるかよ…)
ツンツンと、不意に未空が俺の制服を引っ張る。
「……さっきのこと。俺、どうすればいいのかな?」
どうすればいい、か…。
「……分からん」
俺にも正解が分からない。
ただ一つでも選択を間違えれば取り返しが付かないことになりかねない。間違えるわけにはいかない。
「未空は風魔くんと同じクラスでしたね。もどかしいとは思いますが、立夏くんにだけは悟られないようにお願いします。立夏くんに確かめるには時期尚早だと思いますので」
「じゃあ頼稀には確かめてもいいの?」
「おいおい、そこで喧嘩勃発させんじゃねぇぞ」
「しねぇよ!ただ別件で確かめたいこともあるから…」
「別件?」
「確かめるとは?」
「……秘密」
未空は口元に人差し指を持っていき、ぶりっ子さながらのポーズを取る。
「あらあら、おたくのお子さん反抗期みたいよ」
「思春期ですからね」
「……好きにしろ」
答えが出ない以上、未空に任せるしかない。
未空のやり方を否定出来るほど出来た人間じゃないからな。
それに、あの女の対処も考えねぇとな。