歪んだ月が愛しくて2
「リカはコーヒーだよね。カナちんは何飲む?」
「何でもいい」
「じゃあ俺と一緒でオレンジ…「コーヒー」
「何でも良くないじゃん」と言いながら未空は給湯室へと入って行く。
「………」
「………」
2人きりの空間には長い沈黙が続く。
息苦しい。
でも未空のお陰で大分紛れた気がする。
(未空には本当感謝だな…)
カナは中々話を切り出そうとしない。
俺も、何も言わない。
カナが俺に話があるように、俺だってカナに聞きたいことは沢山ある。
でもいざ話を切り出そうとすると、あの日の記憶が脳裏に過って何も言えなかった。
もう傷付きたくない。
拒絶されたくない。
そう言って心が悲鳴を上げていた。
醜いな…。
自分のことしか考えられない俺は、きっと誰よりも汚くて卑怯な人間だ。
だって本当は俺が傷付くなんてお門違いなんだから。
「何で、家を出たんだ?」
沈黙に耐え切れなくなったカナは、とうとう話を切り出した。
「……別に、そんなつもりはないよ」
「じゃあ何でこんなところにいるんだよ?」
「それは文月さんに紹介された高校が偶々全寮制だったから」
俺の答えが不満だったのか、カナは不機嫌さを前面に出す。
「やっぱりアイツの仕業か…。お前はアイツのことを嫌ってたんじゃねぇのかよ?」
「嫌いだよ」
「だったら何で素直に文月の言うこと聞いてこんなところにいるんだよ?しかも俺達に何の相談もなしに」
「でも兄ちゃんは知ってるよ」
元はと言えば兄ちゃんが文月さんに相談したせいでこうなったのだ。
言い換えれば兄ちゃんが文月さんに相談しなかったら、俺が聖学に来ることはなかった。
あの時は余計なことをしてくれたと思ったが、結果的に兄ちゃんが文月さんに相談してくれたお陰で彼等と出会うことが出来たから俺的には結果オーライなのかもしれない。
ただ彼等にとっては貧乏くじ以外の何者でもないが。
「俺は、聞いてない」
ムスッと、カナは眉を顰めて不満そうな表情を見せる。
その表情にどこか懐かしさを覚えた。
「……うん。言ってない」
「何で隠してたんだよ。何で、俺だけ…」
「文月さんがカナには話すなって言ったから」
まあ、それ以外にも理由はあるけど。
「っ、また文月かよ。何でお前はいつも文月文月って…。そんなにアイツが好きなのかよっ!?」
ドンッと、カナは机を叩いて声を荒げる。
そうやってすぐ感情を表に出すところも変わらない。
でも、とんだ勘違いだ。