ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 日曜、迷うことなく時間通りに来てくれた安積さん。

 表情から疲れた感じは見えないけれど、帰国してすぐ。きっとお疲れに違いない。


「おかえりなさい」

 招いた人間が何を言うのだ、言ってから思ったもののそう言ってしまった。

「ただいま」

 それでもそんな言葉を返してくれたのだ。それに胸がときめかないわけがない。

 おかえりが言えて、ただいまと返って来る関係……今の私たちは上司と部下ではない。

 今は絶対に特別な――恋人同士だ。

「中国は大変だわ……文化というか、考え方のズレがやばいな」

「……そうですか。コミュニケーションも取りにくいですか?」

「うーん……それは人によるかも。とりあえずこっちで当たり前に返ってくると思ってることが返ってこないのは結構ストレスだよな。進捗が進捗になってないことも多い。え? ってそんなんの繰り返しでさ……俺って部下に恵まれてたんだなってしみじみ感じた」

 愚痴みたいにこぼす姿は新鮮で。そしてそれが嬉しくて。そんな姿を私には見せてくれるのだな、そう思うと自然と頬が綻ぶ。

「なんかトラブルとかなかった?」

「はい。柳瀬部長がこまめに声掛けしてくださってたのでそこまで困ってるときはなかったかな……」

 安積さんが不在中のオフィス内をぼんやり思い返しながらそう呟いたら「……そう」と、小さく呟かれた。
< 185 / 248 >

この作品をシェア

pagetop