ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
「キャリアアップの話じゃなかったっけ」

「そんな話はしておりません」

「え、そうだっけ?」

 それは勝手に安積さんが勘違いしたことです、はさすがに言えないので今度は私が一度口を噤んだ。明らかに戸惑った表情の安積さんがいる。それは初めて見せてくれるような子供みたいなぽかんとした表情で、それを真正面から見つめる私の胸はキュンッと締め付けられて跳ね上がった。

「好きです。安積さんのことが、ずっと好きでした」

「……」

「本気です。ひとりの男性としてお慕いしております」

「ま、待って。え? 本気?」

 こくりと頷くと、あの長い骨ばった指先が口元を覆って俯かれてしまった。完全に困らせている、確実に返答に迷っている、そんな感じだ。

「んっと……えっと……四宮っていくつだったっけ」

 (え?)

「いくつ……年ですか?」

「そう。女性に年齢聞くのタブーかもしれないけど、ごめん。状況が状況だしちょっと聞く。何歳?」

「二十四です」

 年齢を聞かれて不快に思うこともないのでケロッと答えてしまったがそれは逆に安積さんを驚かせてしまったようで、より私は首を横に傾けてしまう。

 なにをそんなに驚くのだろうか、セクハラとかを気にしているのかな、そんな思いで思わず言った。


「別に聞かれても気になりませんが」

「俺は気にする」

(え?)

「もう少し、冷静に考えた方がいいんじゃないかな」

(え?)
< 23 / 248 >

この作品をシェア

pagetop