ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 目をぱちぱちとして安積さんの言葉を聞く私は客観的に見たらきっと幼い子だったんだろうなと、後になったら気づけたのだが。その時は本当に何を言っているのかな? どういう意味? 本当にわからなかったのだ。

 そんな私を哀れに思ったのか、やはり子供だなときっと安積さんは思ったに違いない。困り眉で切なそうに見つめられて……それでも優しい声で言われた。

「四宮には四宮に合うもっと良いヤツがいるよ、俺なんかより」
 
 そう、まるで小さな子に言うように、諭すようにそう言った。
 
「どう、どうしてですか? 私は! 安積さんがいいんです! 安積さんが好きなんです!」

「……ごめん、気持ちは嬉しいけど」

「俺なんか、ってなんですか?! 私は、安積さんだからっ……」

「ごめん、いろいろ無理」

 今度はピシャリと切るように言われて続けたい言葉を飲み込まされた。痛いような沈黙、お互いがなにと言えず気まずい空気。時計の針が静かに響き渡る、それに誘われるように胸も逸りだしていく。

「いろいろは……なんですか」

 やっとの思いで吐き出した言葉に、安積さんはどうしたって困った表情で。そして答えてくれた。
 
「そうだな。四宮は若い、もっと視野を広げたほうがいい。ちょっと目の前に俺がいて勘違いしてるだけじゃないかな。歳だっていくつ違うと思う? ひとまわりだ、それ考えたことあった?」

「歳が……理由ですか」

「……一番大きい理由にはなるかもね」
 
(一番の理由?)
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