ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 その声はどこか重くて、呆れも含んだ声だ。だからより顔を上げられずに俯いたままの私がいる。

 泣いたら困らせる、なんて嘘だ。もう充分困らせている、それも知っていて知らない振りして押し付けてなにが同情みたいにしたくないだ。自分の感情の矛盾に嫌気が差す。
 いろんな言い訳を並べて理屈でなんとかこじ開けようと足掻いているだけ。本当に安積さんを想うなら、素直に安積さんの気持ちに応えて身を引くべきなのだ。

 それだって本当は分かっているから――。
 その溜息が怖い、そう思っていたら安積さんが言う。
 
「四宮って、案外頑固なんだな」

「……すみません」

 もはや謝るしか出来ない。項垂れたまま謝ったらプッと吹き出す声。

(え?)
 
「諦めさせてほしいから付き合ってくれ、か。面白い事言うなぁ」

「……真剣に考えて悩んだうえで出した提案だったのですが」

 面白がられたかったわけではない、その気持ちを込めて若干拗ねた声になってしまった。それにまた安積さんが吹き出すから。

「私は本気でっ……」

「わかった」

「……何がですか」

「だからさっきも言ったけどな? わかったよ」

「わかったは、その……」

 伺うように尋ねると壁にもたれていた体をゆっくりと起こして私に一歩近づくと見降ろされた。
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