ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 そう言って、屈託のない笑顔で笑われて見つめてくる安積さんが目の前にいる。

 私はまだ安積さんを好きでいてもいいのだ、しかも誰よりもそばで特別な存在として。

 たとえ限られた時間のかりそめの恋人だとしても……。

(安積さんの恋人になれる!)

 ぱぁぁっと目の前に花が咲いて道が開いたみたいな感覚が私を襲う。世界が色づいたように、春の風が吹いているような温かな気持ちに包まれて、どこか信じられない気持ちの狭間でいたら休憩の終わりのチャイムが鳴った。

「さて……仕事」

 スッと横切って喫煙ルームの扉に手をかけた安積さんは「あ」と、振り向いて私を見つめる。扉にかけた手をそっと放して安積さんの体が私に向いて、一歩距離が近づいた。

「匂い、ついちゃったかもな」

「え……」

「俺と一緒にいたら、四宮がタバコ臭くなっちゃうかな」

 そんなセリフと一緒にフッと笑みを浮かべられて頬が一瞬で火照った。

「はやく出な?」

 促すように背中にソッと手を添えてくれて扉まで導かれる。動かなかった足がそれによって浮いたように動いて扉の外へと出ると空気が変わる。
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