ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 雫と一緒にぽつりとこぼれる安積さんの声。頭からかぶせたタオルの端で、濡れた頬をそっと拭いてくれた。その動きにもだが見つめ合っている事実に動けずにいる。

「四宮が濡れてしまう」

 フッと微笑まれて硬直した体が解放された。

「わわ私は濡れてもどうなっても構いません!」

「なんでだよ。四宮まで濡れたら元も子もない。タオルありがとう」

 そう言ってわしゃわしゃっと髪の毛をタオルで拭く姿にまた視線を奪われる。軽く拭きあげたらその髪を乱雑にかきあげて、濡れた眼鏡を外すから……。

(ちょ、ちょっと待ってぇ!)

 色気がヤバい。濡れ髪をかき上げて、眼鏡を外されたら飛び出してくる顔面に絶句する。

(待って待って待ってぇ! ぬ、濡れた安積さん、無理っ!)

 今まであまり意識して来なかったセクシャルな部分に直面して心臓がバクバクと唸りだす。

 私は恋愛偏差値も低いしそもそも免疫も薄いのだ! いきなり大人の色気を当てつけられて受け止められるほどのキャパはない!

「四宮?」

 固まる私を不思議そうに見つめる安積さん。

 多分眼鏡を外してさほど見えてないのだろう。見えていたらきっと突っ込んで来るはずだ。

 だって私は今きっと尋常じゃないくらい赤面している。
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